「日本的システムの総点検」

秋光 翔著

(通商産業調査会刊・一三〇〇円)

への書評

 月刊時評
1984/12

 
 財形

1984/12/3
   
月刊政府刊行物新聞
1984
年11月号
 

いま日本人が無意識的につくり上げている文明社会は、滅びの構造をはらんだもので、このまま働きバチの称号を奉わりながら、ただひたすら働きとうしていくなら活力を失い、現在の地位から失墜するだろうと本書は警告している。

本書のタイトル″日本的システム″とは「経済に比重の偏った経済優先の社会システム」 のことで、経済的関心だけが余りにも深く日本人の思考と生活の中に入りこんでしまっていることを指摘している。

戦後一貫して変わることなく流れているものは、経済優先主義の考えであり、それは言葉を代えていえば、モノ優先、人間軽視の風潮の表れともいえる。著者はその底に「日本人の伝統的価値意識」が働いているという。

たとえば、それを日本的経営にあてはめてみると、終身雇用制、年功序列制、平等主義、殉教、異端審判、という言葉で表現されるものに集約されている。

これらを
伝統的価値観ということでいえば少し極端になるかも知れないが、徳川時代の倫理思想に通うものさえ感じられるのである。

「同質的
成長を前提とする経営方式」は必然的に「外人に対する差別意識になり、自己本位の精神構造である」と著者はいう。これは孝と忠の実現を理念とする閉鎖完結的な社会の実現であり、外的な発展はなくやがて内から崩壊する宿命をもっていた封建社会と類似している面もある。

「純粋培養同質化された
人間関係」や「公私混然一体化した日本独自の企業と個人の関係」などは、甘え甘えさす日本人の意識構造に根ざすものでもあり、これは土居健郎氏著の『甘えの構造』にもみられるものだ。

モノ大国、「経済の繁栄によって日本はこれまで一体何を実現しようとしてきたのか、経済はあくまで手段であり、その成功を通じて国民の幸福や満足を増すものでなければならない」と著者はいう。

明確な目標意識を欠いた経済成長優先主義がここにきて限界に達したことを、著者は様々な社会現象を通して訴えている。どの面を切り取っても疲弊した日本人の顔がみえるのである。

「一国の文化水準とは、国民一人一人の知的創造的活動の総和なのであって、それが次世代の文化の基盤となる」わけで、そのためには「公的生活の肥大化で私的生活が貧弱化」してしまっていたのではだめなのである。

日本が更に経済的繁栄を続け、世界の平和と繁栄のために貢献していくためには、現在の″日本的システム″を総点検して、著者もいうように「自らを客体視する作業」がいま必要なのである。それには経済優先主義の没理念性から脱却し、人間軽視の価値意識を払拭しなければならない。

本書はより正確な日本の現状を知るうえで、好個のものであり、本書の提起してくれる問題を、さらに自らのものとして掘り下げていく、よきガイダンスにもなる。

(杉)

 

(通商産業調査会刊・一三〇〇円)

 

時評1984/12

 

本書は、日本の経済優先の社会システム(これを表題の「日本的システム」の特徴としている)をもってして、これからの内外の環境変化に対応していけるのか、という危機感を強く訴えるために書かれたものである。

 し
たがって本書全体を通じて、日本社会のかなり広範な論点について、筆鋒鋭く、批判的に論述している点に特徴がある。

 今日、日本の経済の相対的な成
功をもってして、日本の社会制度全体が、世界の中でも優れているとする論者が増加している中で、本書は誠に得難い一書といえるであろう。

 ただ、本書の対象としている「日本的システム」は、ホワイトカラーのサラリーマソの生きている世界に限定されていると思える。著者が、宗教的意識に類似している、とする企業意識を論じた、「第II部の日本的経営の総点検」をはじめとして、第1部で論じている、生産性・基本理念・コスト観念・勤勉さ・教育・国際性などの論点は、いずれもホワイトカラーのサラリーマン社会における原理である。

 本当に、日本的システムは、こうした原理のみによって成り立っているのであろうか。同じ中産意識であっても、その内実はもっと多様なのではないだろうか。工場労働者の世界、商業者の世界、農民の世界、自営業者の世界それぞれの原理は、かなり異なるはずである。こうした多元主義(プルーラリズム)の視点から日本的システムをとらえ直すのも、今後の日本的システムを議論する上では重要となってくると思われる。

 また、ホワイトカラーのサラリーマン社会においても、全員が均一的な原理を保有していたわけではないと思われる。仕事の内容自体に生きがいを見出して、昇進を無視した人々や、駐在先にとどまり続けている商社員や、ベンチャー経営者となったサラリーマンなど、その偏差はかなりあったのではないだろうか。著者も最後に述べているようにそうしたプルーラリズムの再評価が、有効性をもっかもしれない。

(通商産業調査会刊)

(評者)三菱総合研究所

応用経済部研究員 石井耕

 
 

経済システムをも含めた現在の全社会システムで日本は,これからの国の内外の環境変化をどのように乗切るか一経済優先の社会システムを支える日本人の価値観,日本的経営,日本人の行動様式等に焦点をあて,この「日本的社会構造」に潜む脆弱性を明らかにし,今後を示唆したもの.

 主要目次は,日本的システムの総点検,日本の生産性は本当に高いのか,日本的システムの基本理念は何か,日本社会にコスト観念はあるのか,日本人は勤勉か,日本的システムの危機管理能力は大丈夫か,日本の教育は大丈夫か,日本に国際性はあるのか,日本的経営の総点検,宗教的意識に類似する企業意識,日本型の企業と個人の関係をもたらすもの、画一化進む日本社会の前途,国際化と高齢化への対応,今後企業に望まれること等.