読書の部屋

読後感 Reading

 (2001/7/6掲載)

 


 
著者名 タイトル 訳者名 出版社 初版発行日 重版発行日
宮部みゆき 模倣犯 小学館 2001.4.20 {重版発行日}

 

7/4 読了。 ふぅーっ。長かった。

上下で1400ページを越える大冊。連続殺人事件を、加害者側、捜査側に加えて、被害者側の視点をも織り込みながら、重層的に描いた作品であ るが、途中で少し飽きてきた。

 とにかく、著者は、手を抜かず、あらゆるディテールをこまごまと書き込むのだ。ど こへ連れて行かれるかもわからないまま、最後に訪れるであろう感動を期待して、読 み飛ばすわけには行かない。事故現場で紛失し、長らく発見されなかった犯人の携帯 電話器が発見される経緯を説明するだけにも、数ページを費やし、まったく新たに、 病気の子と看病する母親を登場させなければ気がすまない。しかも、その携帯電話器 発見が事件解明の進展にどういう役割を果たしたかについては言及されない。

 確かに、数多く登場する人物を巧みに描き分け、エピソードを積み上げていくディ テールにおいて、著者らしいさえがあることは、認める。文章もわかりやすく、読ま せる力もある。しかし、ここまで行くと行き過ぎだし、ごてごてと絵の具を塗りたく り細部まで描きこみすぎた油絵のような感じがしてくる。

  書き込みすぎて、モティーフがぼやけ、何を描こうとしたのか、何が言いたいのか、 何を訴えたいのか、印象が薄くなってしまった。読み終わっても、優れた長編を読み 終わったときの充実した感動がなかった。一人一人の登場人物には、見るべき人物造 形もあるのだが、人数が多すぎて印象が散漫になった。

  一番の弱点は、真犯人の人物造形にある。悪人にしても、小説の主人公になりうるた めには、それなりに人を惹きつける魅力がなければならない。しかし、表面面は、に こにこと愛想のいい笑いを浮かべ、頭がよく、人好きのする好青年であるが、その内 面は、まったく血も涙もなく、倫理観ゼロの、自己顕示欲ばかり強い独善的な男であ るというだけの人物としてしか描かれていない。そんな男に魅力を感じることはでき ない。著者は「悪」を描いたつもりかも知れないが、その「悪」のすごさが伝わって こない。

 しかも、犯人が事故死し、事件が収束したとみられた段階で、真犯人は別に いるとの説を唱えて、本を出版し、テレビに生出演し、スターを気取るようなレベル の人間なのだ。そもそも、犯人特定の手段として、著者は、声紋分析にこだわりなが ら、真犯人をテレビに出演させるのは、あまりに不用心だろう。声紋分析されたら一 発で真犯人と特定されてしまうリスクを、頭のいいはずの真犯人が犯すというので は、頭の良さも高が知れており、馬鹿にすぎないことになってしまうからだ。人物像 が明らかに分裂しているうえ、声紋分析してみることにも気づかない間抜けな捜査陣 というのでは、読んでいて白けてくるのだ。

 最後には、生出演したテレビのスタジオで、大した実績もない女性リポーターに、この事件の犯人は、 模倣犯に過ぎないと挑発され、連続殺人の筋書きを書いたのは自分であり、これは自 分のまったくの独創であり、決して模倣ではないと、自らが真犯人であることを、天 下に声明する始末である。こんな人間がいるとは、到底思えない。こんな人間が頭がいいとは思えない。こんな挑発には乗らず、冷静に受け流してこそ、本当に頭の良い「悪」人がすることではないのか。

 これだけの大作だ。最後にすごい仕掛けを用意しているのだろうと思い、最後まで読 んだものの、期待は裏切られた。

 劇場型の犯罪が増えてはいるが、小説の主人公とし て取り上げるからには、もう少しまともな人物を作り上げた欲しかった。もう少しま ともな、納得できる筋書きにして欲しかった。著者のご都合だけで登場人物やストー リーを自由自在に操り過ぎている。書き込みすぎて、分量面からの制約を受け、登場 人物が自然に動き出すのを待つゆとりがなくなり、無理な結末へ持っていかざるを 得なくなっている。

 宮部みゆきが、書き手として実力をもっていることを認めるゆえに苦言を呈したい。

 


トップへ
読書の部屋目次へ
ホームへ