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since November 18,1997

(1997/11/18記す:「美しい笑顔」から「天の邪鬼」まで5編を掲載する。)

(2001/8/22記す:2001 年8月18日、「創作ノート1962年」を発見、「然別 湖」から「知っていたのね」まで、28編を一挙に掲載する。)

詩の目次

美しい笑顔(1970/7/30) バラのはな(1962.6.30) 望みない恋にしても(1970.4.22)

わかっちゃってる奴(1970/7/25)

歌った歌った(1962.9.24) 淋しいなんて(1971.7.14)

絶対の無(1970/5/20)

ききょう(1963.10.3) 知っていたのね(1971.7.14)

狼でなければならぬとき(1970/5/4)

あの子(1963.2.23) 全てを晒して(2009/12/29)

天の邪鬼(1970/7/31)

暗い道(1963.2.3)  
然別湖(1961.11.30) 愛の終わり(1963.7.2)  
秋の公園(1962.10.1) 白いバラ(1963.7.2)  
君はいとしき・・(1962.11.30) 花園(1963.7.2)  
幻想(1962.12.24) バラ色の花(1963.8.3)  
うらぎり(1962.12.8) ぼたん(1964.3.15)  
恋する乙女のうた(1962.12.8) 三月よ(1964.3.2)  
くちづけ(1962.3.6) ふるさと(1964.3.2)  
五月(1962.5.6) あじさい(1964.6.28)  
あなたへの賛歌(1962.6.22) 行き違い(1964.6.28)  
こいするひとへ(1962.6.22) こころに(1970.4.10)  

 

 

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美しい笑顔

 

笑いは
顔のよそおいであるが
美しい笑顔は
たくましい心の
素顔なのです

しかし
ほんとうに
笑えなくなってしまったことのない
若い人たちにとって
美しい笑顔が
たくましい心の
素顔であるという真実が
どうしてわかりましょう

 

 

だから今
惜しみなく
笑いをふりまいている
若い人たちに
あなたのその笑いが
たとえ冷たい雨風に
曝されても
色褪せることのないように
若い灼熱の心で
顔の上にきちんと
焼き付けておいて欲しいと
願わずにおれないのです

いつしか
あなたの顔から
笑いが消えてゆき
青白い笑いと憂いとが
それに取って代わろうとするとき

そのとき
石鹸でザブザブと
思い切り顔を
洗ってごらんなさい
一枚皮を剥いたように
あざやかな
赤銅色の
美しい笑顔が
するりとその下から
現れるとしたら
それはあなたにとって
どんなに素晴らしいことでしょう

もし逆だったとしたら
・・・・・・・・・?

1970/7/30作
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わかっちゃってる奴


”わかっちゃってる”奴ってのは ぼくは嫌いさ

何となくべたべたと 先回りしてわかっちゃってる奴!
生徒の機嫌をとる教師
父親の気持ちをわかっちゃう息子
息子のことならお任せねの母親
男というものはねぇ、とおっしゃるバーのホステスあるいは失恋した女
女ってのはさとのたまわるプレイボーイ
世の中ってのはと達観した定年退職者
人生訓をたれたがる上司
世の中万事金次第とうそぶく成金
政治というものはだなと葉巻を燻らす政治屋
言わないでもわかるよと肩を叩き合う飲み友達
とにかく評論家
真実とはと語る私小説家
あなたのおっしゃることは
よーくわかるとおっしゃる
物分かりのいい読者

1970/7/25

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絶対の無


あなたは絶対の無を想像できますか

光も闇も
空間も時間もない
絶対の無というものを
しかし、われわれは
そこから来たのです
われわれはやがて
そこへ戻るのです
あなたの
肉体も意識も
喜びも悩みも
そこから来
そこへ戻るのです
あなたが交わっている
その最も情熱的な情景でさえ
わずか100年
時間を前後にずらしただけで
絶対の無の中に
埋没してしまうのです

1970/5/20

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狼でなければならぬ とき

羊のようにおとなしく
鞭で打たれようが
毛を毟りとられようが
青いやさしい目をむいて
メーと
哀れっぽく
泣き声を出していただけのわたしが
人間に対する思いやりや
自分のやさしさに対してさえ
ふつふつと
腹の底から
怒らなければならぬことに
気づいたとき
祝福された羊から
傷ついた一匹狼へと
変貌したのです


傷ついた狼には

もう涙さえ不要でした
哀れっぽい声を出して
他人の情けに縋ってばかりいた羊は
いまやギョロリと大きな
目を剥き
ことあるごとに
吠え、噛み付く
狼と変わったのです

鞭打たれれば
牙をむき出し
毛を毟られれば
肉を食いちぎる
獰猛な一匹の
狼へと
変貌したのです

1970/5/4
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天の邪鬼


闘うことを至上命令と考える人たちが多いので
俺はあっさり兜を脱いだ
金を稼ぐことを異常に好む世の中になったので
俺はわざと大損をこいた
熱狂する人ばかりでは面白くあるまいと
俺は一人冷めていた
あくどさが人間の必要要件になったからとて
俺の知ったことか

1970作
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タイトル 本文 作成日 コメント
然別湖

1

ひとりはるばる   訪ね来し
然別湖に       秋の日の
沈むを見れば     乙女子は
胸のハープを     震わせる
  ポロロンロンと   竪琴の
  深く静かな     弦の音は
  もみじに淡く    色染めし
  湖の上       流れゆく

2

心淋しい      旅の夜は
然別湖に      初恋の
思いをひそめ    乙女子は
胸のハープを    震わせる
  ポロロンロンと  竪琴の
  甘く切ない    忍び音は
  青い月夜の    銀色の
  さざ波の原    滑りゆく





 

3

色こそ深き     藍色の
然別湖に      思い出の
汲めども尽きぬ   乙女子は
胸のハープを    震わせる
  ポロロンロンと  竪琴の
  思い妙なる    弦の音は
  千古の夢の    影落とす
  白雲山を     越えてゆく

4

深山がくれに    静まれる
然別湖に      さまよいの
別れを告げる    乙女子は
胸のハープの    かき鳴らす
  ポロロンロンと 竪琴の
  心淋しい    弦の音は
  水面に映える  山々の
  もみじの色を  深めゆく

1961.11.30
1961年10月5日北海道大雪山国立公園然別湖に遊びし日の思い出のために。
  なお、畏友川村研治君、我が歌詞に作曲せしものあり。8分の6拍子、ゆったりした曲想の良曲なり。
秋の公園 緑の芝に
秋の日の
柔らに射して
心なし
静けき思い
地にあふれ
鳩の羽音も
軽やかに
頭上を巡る
公園に
さやけき風は
さわさわと
柏の木の葉に
たわむれぬ

歩いて薄く
汗ばみて
楠の木陰に
たたずめば
ひととき高く
梢より
鳴き出したり
つくづくの
声もいつしか
おさまりて
また静まれる
公園の
そぞろ憩える
人影に
人ぞ恋しと
思うも秋か
1962.10.1 この日通産省で入省内定の伝達書を受け、その帰路日比谷公園にて作る。
君はいとしき・・・ ある女の子の思い出のために

君はいとしき  人なれば
黒き瞳は    くるめきて
うるわしくこそ 輝きぬ
君はいとしき  人なれば
黒き瞳の    愛しさを
胸高ぶらせ   見つめたり

君はいとしき  人なれば
我が恋歌に   恥じらいて
頬をば染むる  ことなかれ
君はいとしき  人なれば
我が恋歌に   涙して
白き胸をば   濡らしてよ

君はいとしき  人なれば
小さき肩を   抱き寄せて
雨の並木を   歩かなむ
君はいとしき  人なれば
思いは熱き   くちづけを
傘にかくれて  交わさなむ
  
1962.11.30
幻想
思い出を愛する詩人(ひと)の
秋の日のたそがれ込めて
暮れてゆく林の中を
ただ独り歩ききませば
青白き月は昇りて
上の日の乙女偲ばる

上の日の優しき乙女(ひと)は
惑わしき愛の瞳を
ひたすらに隠しおおせて
ひとことの愛の言葉も
交わさずに別れしままに
幾とせの月日はたちぬ

幾とせの長き月日を
思い出を愛する詩人(ひと)は
慈しみ月の光の
柔らにも洩れて射しくる
草原に腰を下ろして
しょうしょうと笛をば吹きぬ

笛の音は遠く流れて
上の日の乙女の今は
山深き森にて住める
朽ち果てし家の窓より
忍び込み乙女の胸の
竪琴の弦を奏でぬ

激しくも琴の唱うを
怪しみて乙女は白き
レース地のヴェールをまとい
笛の音の小径(みち)をたどれば
上の日の愛しき詩人(ひと)は
草原に笛をば吹ける

くちびるはこの夜のために
赤くにも血染みしものよ
愛しさに狂うばかりに
ひしひしと抱きしめ合えば
今まさに月の光は
皓々と中天にあり
1962.12.24
うらぎり
銀杏並木の別れ際
あの子を胸に抱き寄せりゃ
キッスするにも浮き浮きと
鼻歌交じるはしゃぎよう

うまく隠したつもりでも
あの子のそぶりにゃ隠せない
うらぎりものの影がある
僕をこれほど参らせて
あのまま帰らぬつもりだな

不実な女と知ったとて
別れるなんてできやせぬ
しんそこ好きな女(ひと)だもの
ただ悲しみにひしがれて
あの子の帰りを待つばかり
1962.12.8
恋する乙女のうた
こいしいひとの  おもかげに
にちやこころを  もやしては
ひぐれのまどに  よりそって
すきよとこごえで いってみた

いとしいひとの  つれなさに
AとKとの    イニシアルを
なみだでかいて  テーブルに
そっとくちびる  あててみた

いとしいひとが  いつのひか
あたしにくれた  あいのしを
よふけにひとり  くちずさみ
のぞいたつきに  ほほそめた
1962.12.8
くちづけ
夢とみまごう  美乙女の
心弱くも     目を閉じて
我がくちづけに 頬そめし
春まだ浅き   林のかげよ

乙女の愛は   ひそかにも
春の初めの   花のごと
うすくれないに 咲きそめて
我がくちづけに 恥じらいし日よ


みぐしは黒き   初春の
おごりに酔いし 乙女子の
熱き血潮に   昂ぶりて
甘きくちづけ  重ねし日々よ
1962.3.6
五月
愛らしき
乙女らの
腕を組み
快き
リズムにのせて
足取りも
軽やかに
歌い行く
緑の野辺に
風そよぎ
花のかおりが
ふくいくと
舞い上がる


ああ水色の
空高く
五月のかおりが
たち昇る

五月!五月!五月!
若人の季節
君達の月
僕らの月
1962.5.6
あなたへの賛歌


僕にとってあの日から
すべての善きものがあなたのものとなった
かぐわしい風のそよぎは
あなたの黒髪のなつかしいかおりだ
うすくれないのバラの花には
あなたのつややかな頬のおもかげがある
遠くかすかなピアノの調べは
あなたの心の奥のひそやかな
恋のときめきに思える

今にして思う
燃えさかる真夏の光も
あなたの情熱の瞳ほどまばゆくはない
透き通った湖水の藍も
あなたの瞳の思いほどに深くはない、と

今日 ふと見上げた雨曇りの空には
あなたの思いを潜めた眼差しがあった
一瞬 雲間より差し込めた一条の光は
あなたのあの夜の唐突な愛の証にも似て
眩きの中にもためらいがあり
静けさの中にも激しさがあった

ああ あの時
あなたが唐突に愛を打ち明けてくれたあとき
僕はすっかり驚いてしまった
でもあんな勇気を愛の女神でも授けてくれたものか
大胆にも僕の腕は
あなたのかわいい小さな身体を
しっかりと抱きしめていた
あなたの驚きにも似た
受け身の抗いも
たちまち僕の腕の輪の中に消え去り
僕らは二人して
むせかえるような愛のかおりに包まれ
暗い暗い夜空の中に
白い水蒸気となって
ゆらゆらと舞い昇っていったのだ



夜霧に濡れた花のような
あなたのしどけないくちびるが
かすかに開いて
僕のくちづけを求めるのを
ゆうべ 夢に見た
あなたのくちびるが
風に舞う赤い花のように
くるくる くるくると輪を描いて
上へ上へ昇っていくのを
僕は胸をかきむしりながら
どこまでも どこまでも

追っかけていった

目覚めたベッドの中で
僕が恥じらいながら
あなたの名前をつぶやくとき
かぐわしい朝のそよ風が
なつかしい あなたのかおりを
運んできてくれる
僕は深々と息を吸い込んで
ああ 今日も
あなたとともに
幸せの一日が始まると思うのだ

そうだ その時こそ
すべての善きものが
あなたのものとなるのだ

1962.6.22 詩の目次へ
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こいするひとへ こいするひとは  くちびるを
うすくれないに  そめるべし
かたにながるる  くろかみを
しぐのこぐしで  とかすべし

こいするひとは  おもいでを
こころのこばこに しまうべし
すずろながれて  ゆくはるを
こころひそかに  おしむべし

こいするひとは  むねにわく
おもいゆかしき  こいうたを
ひぐれのにわに  おりたちて
こころゆたかに  うたうべし
1962.6.22
バラのはな
こいするひとは    バラのはな
ゆめみるほどに    おいたちて
かおりゆかしく    さきそめる
さつきのはめの    バラのはな

こいするひとは    バラのはな
あいのひとみは    やさしくも
うてなのかげに    いつわりの
とげをかくした    バラのはな


こいするひとは    バラのはな
ゆうべのつゆの    くちづけに
うすくれないに    ほほそめて
はじらいふかき    バラのはな

こいするひとは    バラのはな
みじかきさだめも   しらなげに
はるのおごりに    よいしれて
まひるにゆめむ    バラのはな
1962.6.30
 




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歌った歌った

歌った歌った
みんな歌った
声を張り上げ
手拍子合わせ
あいつもこいつも
赤い顔してた
聞けや聞け
喉が自慢の
トリオ・ロス・オンチ
コンパの宵は
たちまち更ける
   (コンパ)

 

笑った笑った
みんな笑った
白い歯光らせ
お腹をゆすり
あいつもこいつも
奇声を上げた
見ろや見ろ
踊るもアホウの
カッパの踊り
駒場の若さが
弾ける時だ
 (駒場祭)


叫んだ叫んだ
みんな叫んだ
腕を振り上げ
声を嗄らして
あいつもこいつも
無我夢中
打てや打て
東大チャンスだ
それもう一押しだ
応援戦なら
優勝候補
 (六大学野球)
1962.9.24 9月25日が学生歌応募の締め切りだった。その前夜一旦寝床に入ってから起き出して作詞し、25日出そうか出すまいか大いに迷い午後4時過ぎやっとポストに入れた。10月5,6日から20日過ぎまで故郷に帰って上京した時はすでに入選歌が発表されていた。掲示板の前を通 りながらそれでもうかつに見過ごしてやっと3日目これが佳作に入選していたことを知った。”闘魂は”は、入選、これは佳作当選。応募作品は100%の当選率であった。
ききょう
我が思い人をなんにたとえん
紫におうききょうの花に
ほのじろきかわたれどき
吹く風はすずしければ
この花のこころはきよらかにして
清楚に揺れるたたずまいにこそ
我が愛しき人の
優しき面影偲ばれる
1963.10.3
あの子
あの子に初めてあった春の日
かぐわしい春の風のようだったあの子
お日様のポカポカしたぬくもりの中で
すくすくと育ったバラの花のように
無邪気で明るくて
僕には天使に思われた

夏が来た
激しい暑さが幾日も続いた
あの子と初めて二人して海へ行った。
あの子は陽気にはしゃぎ回って
僕がお転婆さんとからかうと
言ったわね!と
水しぶきをはね返した

秋が来て秋風が吹いた
あの子の瞳の中に
時折 愁いの影が走るようになった
楽しそうに笑っていても
その笑い声が
古いすり切れたレコードのように
ぎくしゃくして
フッとため息に変わるのだ

木枯らしがやってきて 冬になった
僕は見た
あの子のまぶたのかげから
水色の一滴の水の玉が
こっそりと滑り落ちるのを

春が再び巡ってきた
春風はかぐわしく吹き始めた
こぼれるばかりのほほえみが
あの子のほほによみがえり
生きている幸せに
あの子の瞳が
美しく輝くようになった

ああ 今となっては
あの子の愁いの影も
ほほを濡らした涙の跡も
僕らの恋の
なつかしい思い出となった

昨夜(ゆうべ)もあの子は
この僕の腕の中に
静かに抱かれ
夢見るように瞳を潤まして
恋に目覚めた頃のことを
遠い日の思い出のように
懐かしんでいったのだ
1963.2.23
暗い道
この道は暗いけれど
独りで行こう
さびしさに心も
凍えるけれど
それでも行こう
ただ独りで
冷たく降りた
霧の向こうに
清らかに輝く
星を求めて

この道は暗いけれど
独りで行こう
悲しみに涙は
こぼれるけれど
泣かずに急ごう
ただ独りで
望みをかけた
夢を忘れず
明日という日を
信じながら

この道は暗いけれど
独りで行こう
行く手に険しい
山があろうと
負けずに進もう
ただ独りで
明るく晴れた
朝の来るまで
生き抜く希望を
失わないで
1963.2.3


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愛の終わり
あなたのひとみのなかに
うすいあめいろの
あきらかなよそよそしさが
ものうげにちらつき
とってつけたようなほほえみが
あなたの青ざめたほほを
ひきつるようにかすめて消えたとき
ぼくは知ったのだ
ぼくらの愛の終わりを

きのうまで
二人をとりまいていた
キラキラ輝く暖かい燐光は消え失せ
そのかわりに
冷たい湿気を帯びた冬の空気が
どんよりとよどみはじめ
あれほどぼくの心をおどらせた
あなたの一挙一動までが
ひややかなぼくの眼差しの前には
まろやかな動きを失い
糸の切れた操り人形のように
無気力にけだるげに見える


きのうまで
まるで小鳥のように自由に
たわむれ合い、身をすり寄せ合った
ぼくらの二つの心は
今日は
かたくなに扉を閉ざして
思いやりのある別れの言葉一つにさえ
厳重な出入り禁止を申しつけている

愛は二人の心を狂気に陥れ
ぼくらのささいな言葉の節々にまで
生き生きとした生命のいぶきを吹き込み
ゆかしいバラのかおりを注ぎ込んだものなのに
1963.7.2
白いバラ
青磁の花瓶に
白いバラの花
蛍光灯の光に映えて
慎み深い
その清純さ
忍びよる夜の
かすかなため息に
ビロードの柔らかいかげりの
ひとひら
こぼれ落ちて
便箋の上
Dear Noriko...
おお・・・
にじんだ
青いインク
花びらの陰に隠れていた
ひとしずくの
涙に

   
1963.7.2
(病院にて)
花園
あなたの秘密の花園に
こっそり独り忍び込み
見つけた二つの大きいなぼたん
かわたれどきの夕闇に
豊かに白く輝いて
清かにそよぐ夕風に
静かにゆるく揺れていた



あなたの秘密の花園に
こっそり独り忍び入り
茂みの陰に密やかに
香りもあやに咲きにおう
恥じらい深き紅バラの
血に染む赤きくちびるを
闇に紛れて盗まなん
1963.7.2
バラ色の花 乙女の白いうなじに
バラ色の花が
におうように咲いている

朝の通勤電車の人混みの中で
そっと窓ガラスに映しては
乙女は頬をほのかに染めて
白魚のように細い指先で
そのシルクの花びらを
なぜてみる

昨夜の甘い愛の露を
心ゆくまで吸って
一夜のうちに
こつぜんと咲いてしまった
そのバラ色の花を
乙女は
恥じらいのかげで
ひそかに愛おしんでいるのだ

ごらん乙女の瞳の中に
昨夜の思い出がよみがえり
朝露のようにきらめくものが
窓ガラスに映ったバラ色の花の上に
ゆらめきながら注がれているのを
1963.8.3 詩の目次へ
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ぼたん
みずいろの朝風のそよぎに
春はゆかしき思いを秘めて
雪白のぼたんの花と
咲きこぼれよ
姿優しく

あめいろの透き通る葉陰に
春は気怠き光に揺れて
鷹揚にぼたんの花と
咲き乱れよ
匂いも綾に

むらさきの夕暮れのとばりに
春は優しき薫りに満ちて
しめやかにぼたんの花と
咲き匂えよ
思い切なく
1964.3.15
三月よ 三月よ
お前の甘酸っぱい香りは
ぼくの心をしめやかにくすぐり
われとも知らぬ愛おしさに駆り立て
まだ見ぬお前の秘密の花園に
絢爛たる五月の花を
早々と狂い咲かせて
みせようとでもいうかのように

 三月よ
 お前の甘酸っぱい香りは

三月よ
お前の艶めかしい白い蛇腹は
すでに気怠げに暑さに倦んで
しなやかにぬるぬると地面を這いずり出で
ゆらゆらと青白い鼻腔をくすぐり
たわいもなくぼくの心を
縞瑪瑙の眩きの渦の中に
くるくると引きずり込んで
しまおうとでもいうかのように

 三月よ
 お前の艶めかしい白い蛇腹は
1964.3.2
ふるさと
幾とせぶりの
ふるさとに
心はなべて
遠き日の
唐草模様を
紫の
夢路に辿る
この夕べ
真白き雪は
淡雪は
降り積もりゆく
音もなく
1964.3.2
あじさい
浅き夢路に雨だれの
終夜途絶えぬ音ありて
詮無く起きしあけぼのの
庭に見出だせしあじさいの
夢さめやらぬ花の色

明けても晴れぬ雨空に
家に籠もりし独り身の
所在なきげの眼差しに
などか淋しきあじさいの
涙模様のたたずまい

止むとも見えじ長雨の
いつしか止みて雲間より
ふと差し込みし夏の日に
ひときわ白くあじさいの
輝けるさま匂うさま

雨の一日(ひとひ)の暮れゆくを
窓辺によりて眺むれば
いま音もなきたそがれに
ほのかに白くあじさいの
暮れ残りたる花の影
1964.6.28
行き違い 人波の
絶え間なき
夕暮れの
街角に
ただ独り
佇みて
来ぬ人を
待つ身には
心無き
秋風の
戯れの
口づけも
ひたぶるに
身に染みて
胸に満つ
悲しみに
自ずから
眼より
瑠璃色の
水玉は
はらはらと
こぼれ落つ

ああされど
かの人も
秋の日は
傾けど
現れぬ
このわれを
ひとときも
待ちわびて
磯洗う
波のごと
絶え間なく
うち寄せる
罪はなき
人波に
ふらふらと
誘われて
すでに早や
闇深き
秋冷(びえ)の
宵の街
あてどなく
さまよえば
いかばかり
その胸は
悲しみに
痛むらん

1964.6.28 詩の目次へ
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こころに こころよ
わたしの
青い
小さな蝶よ
春の野原の
花びらの上に
可憐な影を落として
そよ風に舞う
青い小さな
わたしの蝶よ

こころよ
わたしの
青い
小さな蝶よ
秋の枯れ野の
枯れ葉の中に
淋しく羽根を重ねて
夢を見ている
青い小さな
わたしの心よ
1970.4.10
望みない恋にしても
愛もなく
夢もない
苦しみだけの
毎日を
ひたすらに
生きてゆくだけなら
明日にも
私の生命は
枯れてしまうだろう
だけど
あなたを
愛している限り
たとえそれが
苦しみにすぎなくとも
私は少しも
挫けない
いつかこの愛が
花開く日を
そっと胸に描けば
私の心に
希望が溢れ出る


恋もなく
望みもない
悲しみだけの
毎日を
あてもなく
生きてゆくだけなら
明日にも
私の生命は
尽きてしまうだろう
だけど
あなたを
恋している限り
たとえそれが
悲しみを増すだけでも
私は少しも
構わない
いつかこの恋が
実を結ぶ日を
そっと瞼に描けば
私の身体に
生命が迸る
1970.4.22
淋しいなんて 淋しいなんて言えないように
あなたの唇塞ぎましょう
悲しいなんて泣かないように
あなたの瞳を見つめましょう
そしてあなたが夢見るように
あなたのハートをわたしの愛で
そっと優しく満たしましょう

嫌いだなんて言えないように
あなたの唇塞ぎましょう
死にたいなんて逃げないように
あなたを強く抱きしめましょう
そしてあなたが愛するように
あなたのハートにわたしの夢を
そっと優しくささやきましょう
1971.7.14
知っていたのね 震える心であなたの言葉を
待ち望んでいたわたしの側を
素知らぬ振りして言葉もかけず
通り過ぎていったあなたのことを
冷たい人だと恨んでいたの
だけどあなたは知っていたのね
わたしの密かな燃える思いを
今こそ幸せはわたしのもの
さあ、わたしを強く抱きしめて
もう離さないって言って欲しいの


燃える瞳であなたのことを
見つめていたわたしの側を
知らない振りして笑顔も見せず
通り過ぎていったあなたのことを
つれない人だと恨んでいたの
だけどあなたは知っていたのね
わたしの切ない恋のうずきを
今こそ幸せはわたしのもの
さあ、わたしをそっと抱き上げて
もうあなたのものだって言って欲しいの
1971.7.14


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 全てを晒して  ぼくはぼくの全てを
ホームページに晒してしまっているから
ぼくの底の底まで誰にも
見え見えにしてるから
ぼくが良く見せようと
どんなにふんぞり返ってみたところで
すぐ底が割れてしまう
すぐひっくり返ってしまう


何も晒さないあなたがたは
どこに底があるか
誰にもわからない
だから良く見せようと
どれほどふんぞり返っても 
底が割れることも
ひっくり返る心配もない

さあ、
安心してふんぞり返ってください
あなたがた


 2009.12.26  

 

 ご鑑賞ありがとうございました。