私の健康法
「私の健康法」などと題して、この欄に登場したりしますと、さしずめ立派な健康法を実行しているかのように思われることでしょうが、他人に吹聴できるようなものは何もないのです。にもかかわらず、編集者の依頼を引き受けましたのは、「お前もそろそろ中年だから健康に留意したほうがいい、この際自分の健康法について考えてみてはどうか」との有り難い思し召しと考えてのことです。
私に、いささかなりとも健康法について語る資格があるとすれば、ほぼ完全に健康を損ねた苦しい経験があることに帰するかと思います。社会人になってしばらくたった頃、文字通り殺人的に忙しい仕事を二年近く続け、一日にほんの数時間しか睡眠の取れないような日がかなり続きました。その結果、過労から来る種々の症状が表れ、いわば廃人寸前の観を呈したことがあります。そのとき、つくづく感じたことが私の健康法の根底にあるわけですが、なかでも一番骨身にしみたのは睡眠不足の怖さでした。そこで第一の健康法は、
「睡眠をよく取ること」。
これに勝る健康法はないでしょう。しかし、凡人の悲しさ、わかっていながら夜更かしを続け、ふらふらになることがよくあるのです。「わかっちゃいるけどやめられない」ことがお互い多いですね。
それに良く眠られるためには心身とも健康でなければならないのもまた事実です。不健康になれば良く眠れなくなり、それがまた不健康を助長します。一度落ち込んだこの悪循環から脱出するのは並大抵の苦労ではありませんでした。そこで日頃から心身の健康を維持するため、健康法の第二、
「日頃から運動を欠かさぬこと」
私は生来運動好きで、ポーランドでもテニス、ピンポン、スキーなど大いに楽しみましたが、若く、時間的余裕があり、かつ、シーズンの最中には簡単に実行できることも、歳を取り時間的余裕が乏しくなり、かつ、シーズンオフともなれば、すぐ怠けてしまうのが、私ごとき凡人の通例です。運動を欠かさぬことは、私にとって、これからがいわば正念場です。
運動で汗を流すことは精神的なストレス発散にも役立ちますが、仕事や運動以外に、何か没入できるもの、いわば生き甲斐となるような趣味を持ち続けることが精神健康維持に不可欠かと思います。私は生まれつき色んなことに興味を持つ男で、これまでも雑多なことに頭を突っ込んできましたが、たとえどんなに簡単に見えることにしても、ひとつのことをある程度長く続け、あるレベルまで達しなけれ本当の面白さがわからず、結局身に付いたものにならずに終わるもののようです。
「囲碁三昧」「読書三昧」など良く言いますが「何トカ三昧」に耽ることができるようになれば、文字通り仕事の苦労も世の憂さも忘れることができ、精神健康に大いに役に立つことでしょう。そこで健康法の第三、
「長続きする趣味を持ち、人生を楽しむこと」
これと軌を一にするのですが最後のもうひとつ健康法として付け加えるとすれば、
「いつまでも好奇心を失わないこと」
これこそ長生きするための、したがって健康を維持し、若々しさを保つ秘訣のように思われます。いつまでも好奇心を失わず新しいものに関心を持ち続け自分を絶えず変革していこうと努める気持ちが、自分の健康にも気を配り少しでも長生きしようという意欲と結びつくのではないでしょうか。
以上、いずれも平凡なことばかり書き並べましたが、さて、これから実行となると必ずしも容易とは限りません。しかし、「私の健康法」と読者諸兄(姉)に広言したからには、怠慢な我が身を鞭打ちつつ頑張らざるを得ないようです。もっともそれがこの一文をお引き受けした動機でもあったのですが。
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