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チビクロの冒険(小説)
黒い子犬「チビクロ」が、大活躍します。小学生から大人までお愉しみいただけます。
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目次
1.ポーランドへ=1 2 3 4
2.アンナ=5 6
3.キジ猫=7
4.いたずらな子供たち 8
5.ボイテック一家 9
6.日本大使館10 11
7.タクシー(工事中)

 日 本 大 使 館

          10

 翌朝目を覚ますともう窓からキラキラ輝く朝日が眩しい程に差込んでいました。

「もしもし、おはようございます。私グルジンスキ―ですが、今日、急に大変大切な用事が出来ましたので、申しわけありませんが、休暇をとら せていただきます」

タトゥ―シュが勤め先に電話をかけています。

「さあボイテック、早く毛皮のコ―トを着るのよ。お外は零下五度なんですからね」

 マ―トカがボイテックをせき立てています。

「コ―トを着たら、チビクロにこのお肉を上げて頂戴。あなた、チビクロの皮紐をちょっと捜して来てくださいな。確か地下室の納戸にあった筈 よ。私、ヤ―チェックの乳母車の用意をしますから」

 あわただしい朝です。皆んなが手分けして忙しく働いています。地下室から上がって来たタトゥ―シュが、僕の首に立派な皮紐をつけてくれま した。

 いよいよ出発です。

 しばらく歩くと住宅街から、両側にビルの立並ぶ大通りへ出ました。大きな並木が通りの両側にそびえています。ゴ―ッと大きな音を立てなが ら赤い色をした電車が走って来ました。

「さあ あの電車に乗ろう」

 タトゥ―シュは皆んなをせきたてて電車に乗りこみました。僕は生まれて初めて市街電車の客になりました。なんだか落ちつきません。ぐるり と回りを見回すと電車の前の方に痩せた背の高い犬が腰を降ろして、僕の方を見ています。僕はいつもの癖で

「ウ―」

と唸り声を上げてしまいました。その途端、お尻に、目から火が出るほどの痛みを感じました。

「キャン」

 僕は悲鳴を上げました。とまたお尻に目から火が出るほどの痛みが来るのです。驚いて振りかえるとタトゥ―シュが皮ひもの端で僕のお尻を ぶっているのです。僕は尻尾を後ろ足の間に巻込み、首を垂れて黙り込みました。するとタトゥ―シュは振りあげていた皮ひもを下しました。

「あの犬を御覧。じっと静かにしているだろう。人の大勢いるところでは、吠えたり唸ったり、人の迷惑になるような事はしてはいけないんだ よ、チビクロ」

 確かに電車の前の方に座り込んでいる痩せた背の高い犬は、顔色ひとつ変えず、すましこんでいます。電車の中では、やたらにウ―とか、キャ ンとか言ってはいけないようです。とにかく、生まれて初めて皮ひもでぶたれたので文字通り骨身にしみてよく分りました。僕も、お尻のいたいのを我慢してい ずまいをただし、痩せた背の高い犬のようにきちんと座りました。

 電車の窓は、僕の背丈よりずいぶん高いので窓から見えるのは、高いビルの屋上の方と並木のてっぺんとキラキラ輝く空ばかりです。並木のこ ずえには一枚の葉っぱもついていません。次から次へと複雑にからみあった木の枝のモザイクが消えては現れます。どれほど多くの並木を見たことでしょう。僕 には、一万本も見たように思えました。

「さあ ここで降りるんだよ」

 タトゥ―シュが言いました。降りたところは人通りのかなり激しいところでした。車がひっきりなしに走っています。よくよく見ると運転手が 左の方に座っています。しかも車は道路の右側を走っているのです。僕は面くらってしまいました。日本とは全部あべこべだからです。日本にいる時には、まず 右の方を見てから左の方を見て横断歩道を渡ったものでしたが、ここではまず左を見てから右 を見なければなりません。いつもの癖で右を最初に見て横断歩道に飛出してしまい、タトゥ―シュにいきなり皮ひもで引戻されてしまいました。見ると左の方か ら車が突っ込んで来ていたのでした。

 電車の停留所から大通りにそって四、五分歩き、スリッパ屋さんの角を右に折れ、やや狭い、なだらかな下りの坂道に入りました。通りの両側 には、車がいっぱい駐車してします。でも、ここも歩道が広くて、大きな並木が植わっており、歩くスペースは十分あります。角から五十メ―トル程行ったとこ ろで、タトゥ―シュが立止まり、右側の三階建の建物を指差しながら、

「ここが、日本大使館だ」

と皆んなに教えてくれました。そう言われて門柱を見上げると、四角いプレ―トに金色で

「日本大使館」

と書いてあります。ぼくは胸がどきどきしてきました。日本と言う文字があるのですから、ここには日本人が住んでいるに違いありません。もし かしたら、ご主人や奥さんやミコちゃんやひろしくんも、ここにいるのかも知れません。

 石の階段を四、五段昇ったところに入口があります。タトゥ―シュがブザ―を押すと、入口の黒いドアが開きました。中に入ると受付けに、少 し年を取ったポ―ランドの女性が座っています。タトゥ―シュが

「領事関係のお仕事をなさっている方にお会いしたいのですが」

と尋ねると、受付の女性は、すぐ電話で連絡をとってくれ、皆んなを受付のすぐ右手にある応接室に案内してくれました。毛皮のコ―トを皆んな が脱ぎ終わらぬうちに、タトゥ―シュに劣らぬくらい顔中に真黒な髭を生やした日本人が応接室のドアを開けて入って来ました。

「どんなご要件でしょうか」

 驚いたことに髭の男の人は、日本人のくせにポ―ランド語でそう尋ねたのです。タトゥ―シュは

「実は、昨日、この犬が、私の家の近くの樅の木の下で伸びていましてね。家内が可愛そうに思い家に連れて帰り介抱してやったんですが、鑑札 を見ると日本の鑑札をつけているんです。それで日本人のお宅に飼われていた犬ではないかと思い、こうしてお伺いしたわけでして。大使館の方では、何か心当 たりはありませんか」

と切り出しました。

「ふ―む。日本の鑑札ですか。どれどれ。なるほど。確かにそうですね。でも、ワルシャワには、日本人は二百五十人も住んでいるんですからね え……一軒一軒に電話して、お宅の犬は行方不明になりませんでしたかと聞きまわるわけにもいきませんし………何か他の手掛かりはありませんか。例えば、飼 いぬしの氏名とか?」

「それなら分かっています。この犬が言うには、飼主はなんでもゴシュジンと言うのです。」

「えっ?!この犬が言う?あなた、まさか私を馬鹿にしにいらしたんじゃないでしょうね」

「いや、そんなことは決して。ただ自分でも不思議でならないんですが、昨日から、急に犬の言葉が分るようになりましてね」

「まさか、あなた。人間に犬の言葉が分るなんて。そんなこと私、大学でも習わなかったし、日本のテレビ番組でも見たこともありません。それ は絶対に間違いです」

「いや、間違いではありません。私が犬の言葉が分るってことは、ここにいる家内も、私の息子も、ちゃんと認めているんですよ」

「それは、きっと奥さんや息子さんは、あなたのおっしゃることですから、信じたふりをなさっているんじゃないんですか」

「え―、私も最初は全く信じられませんでした。でも、どうも内の主人ときたら、本当に犬の言葉がわかるらしいんですの。あなた、この方の前 で、昨日私に証明してくださったように証明してお上げになったら」

マ―トカが助け船を出しました。

「それじゃ、ちょっと実験をしてお目にかけます。このチビクロに――そうそうこの犬はチビクロっていうんです。――このチビクロにこれまで 日本で何という通りに住んでしたのか聞いてみましょう。チビクロが何と答えるか。私は日本へは一度も行ったことがありませんから、通りの名前なんて何にも 知りません。もし、チビクロが日本の地名を答えられたら、私がチビクロの言っていることが理解出来ると言うことになりませんか?」

「ふ―む。じゃ、とにかくやってみて下さい」

「チビクロ、これまでお前は何という通りに住んでいたのかい?」

 僕は、頭をひねりました。だって、僕は、通りに住んでいるのら犬ではなくて、ちゃんとご主人の家の犬小屋に住んでいたのですから。

「僕は通りにじゃなくて、ご主人の家に住んでいました」

と僕は答えました。

「いや、それは分かっている。じゃ、そのゴシュジンの家は何という通りにあったのかい」

なんだ、そういう意味か。とはいうものの、僕はこれまで通りの名前なんて気にもとめていなかったので、全く思いだせません。
どこか出掛ける時でも、通りの名前を覚えるよりも、お菓子屋さんの角を曲がって、花屋さんの横を通り抜け、僕のオシッコの臭
いのする電信柱のところを左に曲がるとお肉屋さんがある、というふうに覚えておく方がよっぽど実用的で便利だからです。僕は
首をかしげながら、何とか通りの名前を思い出そうと脳味噌を絞りました。しかし、どんなに一生懸命になって思い出そうとして
も、一度もはっきり覚えたことのないことを思いだせる筈がありません。

「どうしても 思い出せません」

 僕は、力なく答えました。タトゥ―シュは明らかにがっかりしたような顔をして

「ふ―む」

とあごをさすりました。

「一体、この犬は何と答えたんですか」

髭の日本人が聞きました。

「いや、通りの名前は思いだせないと言っています。これまでゴシュジンの家にいたとだけ」

「アッハッハッハ、いい加減にして下さいよ。大使館は忙しいんですから、そんな話にかまっている暇はありませんよ。それはど
んな犬でもご主人の家にいたでしょうよ。別に犬が喋らなくても、そのくらい誰にだって分りますよ」

「もう一回だけ試させて下さい。いいことを思い付きました。チビクロは、飛行機に乗ってやって来たと言っていますから、何時
発の飛行機に乗って来たのか、ちょっと聞いてみます」

 タトゥ―シュは真剣な顔付きをして僕の方へ振り向くと

「チビクロ、いいかい。もう一回だけ尋ねるけど、何時発の飛行機に乗ったんだい?」

と僕の顔をのぞきこむようにして聞きました。飛行機の出発時刻か。これなら、何とか思いだせそうです。そうそう、あの出発の
日は、朝から飛行機の出発時間に合せて、一日あれこれ動き回ったのです。七時にタクシ―が来て、飛行場に着いて、空港の時計
が九時半を回っていたのであわててカウンタ―にしのびこみ………そうです。思い出しました。
「あの―夜の十時三十分の飛行機です」

僕は、確信を持って答えました。

「この犬は、夜の十時三十分発のに乗ったと言っていますが。さっきも言ったように私は一度も日本へ行ったことがないのでそん
な便があるかどうか全く知りません。この犬が答えた通り繰返しただけです。時刻表があったらちょっと確かめていただけません
か」

 髭の日本人は、ハテナといったような顔をすると

「少々お待ち下さい」

といって奥に引込みました。しばらくすると分厚い時刻表を覗きこみながら現れ

「確かに十時三十分発のJALってのがありますなあ」

「それじぁ、私が犬の言葉が分るってことを分かっていただけましたか」

「まあ、全部信ずるというわけにはいきませんが………それで、この犬の飼いぬしの名前は分かっておりますか」

「それは、さっきも言った通りゴシュジンです」

「エッ?さっきあなたがいったゴシュジンというのは、人の名前のつもりでいったんですか。それは、日本語で飼いぬしという意
味ですよ」

「でも、その飼いぬしの夫人は、オクサンといいます」

「オクサンというのは夫人のことですよ」

「でも 娘さんはミコちゃんで、息子さんはひろしくん」

「ちょっと待って下さい。ミコちゃんという娘さんに、ひろしくんという息子さんですか。ちょっと在留邦人の届出簿を調べてみ
ましょう」

 髭の日本人は、もう一度部屋を出でいき、今度は大きな帳簿を持って現れました。

「残念ながら、ミコちゃんとひろしくんという子供のいる家族の届けはありませんね。え―と、この犬を見付けたのは、確か昨日
とかおっしゃいましたね。それじゃ、この犬の飼いぬし一家はまだ在留届けを大使館に出していないんじゃないんですかね。しか
し、いずれにしましても、近いうちに在留届けを提出に来るはずですから、そのときは、ご連絡して差上げますから。この紙に住
所と電話番号を書いておいて下さい」

「そうですか。それでは宜しくお願いします」

 タトゥ―シュもマ―トカも力なく答えました。皆んなうなだれて大使館を出、今来た道を戻り始めました。

 その時です。

 僕の鼻がキンコンカンコンと鳴り始めました。僕は、思わず走り始めていました。いきなり僕が走り始めたので、皮ひもはタト
ゥ―シュの手からすっぽり抜けてしまいました。 「チビクロ!」

 タトゥ―シュはあわてて僕を追掛けて来ます。でも、僕はそのまま全速力で走り続けました。

 向うから、懐かしい人影が近付いて来るのです。大人が二人、子供が二人。厚いコ―トを着ていますが、この匂いをかぎ間違え
るような僕ではありません。それは、まぎれもなく、ご主人と奥さんとミコちゃんとひろしくんの匂いです。僕は、ワンワンと歓
声を上げ、尻尾を小旗のように振りながら走っていきました。

「ワンワン」

 僕はご主人の胸に跳びつきました。ご主人はいきなり僕に跳びつかれて、ひっくり返りそうになり、二、三歩よろよろとしたあ
げく、やっとのこと立ち直りました。

 僕は今度は、奥さんの胸に跳びつきました。奥さんは驚いたように 「マアマアマア」 と叫びました。

 僕は、続いて、ミコちゃんの胸に跳びつきました。ミコちゃんは、物の見事にストンとシリモチをつきました。

 最後に僕は、ひろしくんに跳びつきました。ひろしくんは、待ち構えていたかのように僕の両前足を取ると

「チビクロ!」

と叫びました。

「チビクロ!?」

 ご主人と奥さんとミコちゃんが驚いて一斉に叫びました。

「そんな筈が………」

とご主人がいいかけました。

「まさかチビクロがこんなところに………」

奥さんもいいかけて、両手を開きかけた口にかぶせました。

「ほんとにチビクロだわ!」

今度はミコちゃんが、シリモチをついたまま叫びました。

「ほんとだ、チビクロだ!」

ご主人と奥さんが一緒に叫びました。

 その時、ちょぅどタトゥ―シュがはあはあ息を弾ませてやって来ました。僕は

「これが、僕のご主人と奥さんとミコちゃんとひろしくんです」

と紹介しました。

「エッ これがチビクロの飼いぬし一家なのかい」

「今日は 奥さん」

「今日は ご主人」

「今日は ミコちゃん」

「今日は ひろしくん」

 タトゥ―シュは一人一人の手を握って挨拶しました。ご主人も奥さんも、ミコちゃんもひろしくんもポ―ランドの男の人が、オ
クサンとか、ゴシュジンとか呼んだり、ミコちゃんひろしくんと言いながら、手をきつく握ってさかんに振回すので目を丸くしま
したが、それでも、手をぎゅっと握り返して挨拶を返しました。奥さんは、手の甲にチュッとキスされて少し赤くなりました。そ
のうち、マ―トカとボイテックもやって来て握手を始めました。マ―トカからほっぺたにチュッチュッとキスされて、ミコちゃん
とひろしくんは跳び上がりました。

 タトゥ―シュがこれまでのいきさつを説明し始めました。

「実はチビクロを昨日、私の家の近くで妻が見付けまして、今日、日本大使館へ連れて来たところなんです」

 タトゥ―シュは、身振り手振りを交えて話すのですが、ご主人たちには何も分らないらしく、きょとんとした顔で聞いていま
す。ポ―ランドに着いたばかりでポ―ランド語は全く分らないらしいのです。タトゥ―シュは、なおさら一生懸命になって

「このチビクロは」

と僕を抱上げ、

「あなたがた一家を慕って、飛行機に忍び込んでポ―ランドまでやってきたんですよ」 と、説明しました。それでも、ご主人は

「この人一生懸命説明してくれてるらしいんだけど一体何を言っているんだろう、ねぇ、ママ」

と傍らの奥さんに話し掛ける始末です。ミコちゃんも僕をタトゥ―シュから抱きとって、 「チビクロ、どうしたのよ。どうしてこ
んな所にいるの?」

と僕の顔を必死になってのぞきこむのです。人間って何て不便な動物でしょう。僕は、そう思いながら、タトゥ―シュに

「今タトゥ―シュが話したことは、僕のご主人には何も分らなかったようです。すみませんが、もう一度さっきの大使館へ引返し
て、髭の日本人に通訳してもらったらどうでしょうか」

と提案しました。タトゥ―シュも

「それはいい考えだ」

と深くうなづき、皆んなして、日本大使館へ戻ることになりました。

 

         11

 大使館では、先ほどの髭の日本人が通訳をやってくれました。

 ご主人は、タトゥ―シュが僕の喋ることが分るのでびっくりしましたが、タトゥ―シュが話すポ―ランド語を僕が分るのを見て
二度びっくり、あんなに大きなご主人の目玉を見たのは、その時が初めてでした。これなら本物の目玉焼が出来そうです。

 話はこんなふうに進みました。

 ご主人「チビクロが飛行機に忍びこんだのは分りましたが、実はポ―ランドヘ発つ前に、チビクロを私の父の家に預けてきたん
です。そこから飛行場まで、一体どうやって行ったのかチビクロに聞いて下さい」

 僕にはご主人の日本語は良く分りますので、僕はタトゥ―シュに犬語で説明します。
「今、ご主人は、僕が飛行場までどうやって行ったかと聞いています。僕は、あの夜お祖父さんの家からこっそり逃出して、ご主人の家の前の暗闇に隠 れ、タクシ―が来るのを待っていたんです。そして、皆んなのスキを盗んでタクシ―のトランクへ忍びこみ、こっそり飛行場までいったんです」

 僕が説明すると、今度はタトゥ―シュがそれをポ―ランド語に直して髭の日本人へ伝えます。それを、髭の日本人が日本語へ訳
すとご主人一家が最後にナ―ルホドというわけです。しかし、残念ながら、この髭の日本人の日本語訳は余りうまくありません。
ところどころタトゥ―シュのポ―ランド語訳と違うところがあります。そんな時には、僕はタトゥ―シュに向かって 、

「今、髭の日本人が、手荷物のトランクの中に隠れた、といいましたけれど、タクシ―のトランクに隠れた、と直すように言って
くれませんか」

と頼みます。するとタトゥ―シュが、髭の日本人にポ―ランド語で説明して、正確な日本語に直るというわけです。こんな面倒臭
いやり方でしたので、僕の長い旅行の一部始終を話し終えるのにずいぶん長くかかってしまいました。僕もいささかくたびれまし
たが、皆んなが僕の話を目を丸くして聞いてくれるので、実をいうと大変得意でした。

「チビクロって凄いのねえ。アタシひとりでなんか、とてもポ―ランドに来れないわ」

 ミコちゃんが僕に頬ずりしてくれます。

「チビクロは、ウルトラマンみたいに何でもできるんだね。スゴイナ―」

 ひろしくんは、僕の頭を何度も何度も撫ぜてくれます。  僕はもう嬉しくなって、ワンワン吠えながら、そこらじゅう転げ回り
たいところでしたが、人のいる所で人の迷惑になることをすると、タトゥ―シュにもう一度皮のヒモでお尻をぶたれるかも知れな
いと思い、電車の中の痩せた背の高い犬のようにすましこんでいました。

「ほんのしばらく会わないうちに、なんだかチビクロったら、凄く大人になったみたい」
 今度は奥さんがいいました。

「うん、長い冒険旅行をやったんでぐっと成長したみたいだな。もう立派な雄犬だ。ポ―ランドで早くお嫁さんを見付けてやらな
くちゃいけないな」

 僕は、すましこんでいましたが、頭の中が少しポ―ッとなり、気付いて見ると我知らず尻尾をさかんに振っているのでした。
 
 

  (続く)
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