編集者のつれづれノート Editor's Note

 (2001/3/14掲載)

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変身願望と多趣味

 子どもの頃月刊雑誌「少年」に連載されていた江戸川乱歩の「怪人二十面相」 を、毎月欠かさず読んでは、様々な人物に自由自在に変身できる怪人を名探偵明 智小五郎以上にうらやましく思ったものだ。

 中学時代に演劇部に入ってのも、忍者ものや「小公女」や「小公子」「ふたり のロッテ」「怪盗ルパン」「モンテクリスト伯」などの変身や取り替えを主題に する小説が好きだったのも変身願望の現れだったのだろう。

 実際私の変身願望は強くて、小学高学年の頃と記憶するが、ある日ぼろをまと って浮浪者に変身し、言葉遣い物腰も変えて、近所の子どもや大人を煙に巻いた こともあるほどだ。そういえば、わたしは5人兄弟なのだが、わたしが言い出し て、姉二人が男装し、下の弟二人とわたしが女装して写真を撮ったものが今も残 っている。こんな記念撮影をする兄弟がいるのだろうか。

 とはいうけれど、私に限らず、多かれ少なかれ誰しも変身願望を持っており、 テレビのアニメで、「ヘンシーン」と呪文を唱える変身ものがヒットしたのも、 小説や映画や演劇が愛好されるのも、その現れである。

 ところで、今日歩きながら、ふっとわたしに趣味が多いのも、あるいは趣味を 多く持とうとしたのも、子どもの頃からのわたしの変身願望が実ったのかも知れないと思いあたった。

 ここにいる、地味な背広を身につけ、髪をきちんと73に分けた初老の男は、見 るからにまじめな会社勤めのサラリーマンのようにお見えでしょうが、その実 は・・・と相手次第で、様々なものに変身し、実物の自分はこういうものでござ いまして、実直なサラリーマンは世を忍ぶ仮の姿にすぎないのでございます、と 言えたらどんなにいいかと、長年思ってきたのではないだろうか。

 背広にネクタイ。このサラリーマンにつきものの制服が、今もって身に付かな い感じがする。むしろ、長年着続けてきた反動もあって、仕事に関係しない会合 に出席する際には、まず背広をジャケットにし、ネクタイを外すことを考える。次 にジャケットもセーターやジャンバーですまそうと考える。靴も黒の革靴より、ウオーキング用のスニーカーがいい。わたしの趣味の多く は、背広とネクタイにほとんど関係ないものばかりだ。サラリーマンになるよりも、出来ることなら、趣味の何かで なりわいを立て、自由気ままに暮らしたいと思っていたのだ。

 趣味は確かに多いが、それで飯を食ったこともなく、しかもどれも趣味の領域 をでないものばかりなので、水彩画が好きだからといって、水彩画家と名乗るの は、おこがましかろう。しかし、固いことはいわず、その道のちょっとした通を 相手にもっともらしい相槌を打てる程度のものという意味で、わたしが変身可能 なものとしては、水彩画家、写真家、小説家、ミステリー作家、作詞家、歌人、 俳人、川柳家、評論家、エッセイスト、旅行作家、スキーヤー、テニスプレイヤ ー、ゴルフプレイヤー、碁打ち、などがあげられよう。

 この頃、インターネット上でホームページを運営するのも、大いなる趣味にな ってきたので、ホームページ運営家と言えなくもない。

 数えてみると16になる。これくらい揃えば、二十面相には及ばぬものの、変身 に不自由はすまい。サラリーマン生活から足が洗える日が来たら、この16を、取 り替え引き替え、自由自在に、変身してみたいものである。

 いや、それよりも、この16を併せ持つ、世界に類のない多趣味家という存在に 変身し、背広とネクタイとは無縁な、自由な生活を愉しみたいものである。


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