編集者のつれづれノート
   
   阿部毅一郎が登場のミステリー  
  TOP  
   
 私(阿部毅一郎)と同姓同名の判事が登場する推理小説を、知人に教えてもらいました。
「お伽噺ミステリー傑作選」(1989/10/25印刷1989/11/4 発行 河出文庫)所収の高木彬光著「月世界の女」(同書p.131〜164)です。
 
   
初めての体験でしたので、面白くも、こそばゆくも、感じました。「私の独楽吟」にも、
「たのしみは 私と同姓 同名が 主役演ずる 「推理」あるとき」(2011/9/21)
「たのしみは 同姓同名が 主人公 「月世界の女」 読み進むとき」(2011/10/3)
と詠いました。
 
   関連する部分を下記に書き出しましたので、何らご参考までに掲載します。  
   記  
 ページ 本文   
p.142   
 第三が元子爵家の書生をしていて、苦学して高文に合格し、司法界でその将来を嘱望されている、判事の阿部毅一郎、この男と話をしていると、私は何だか妙な親しみを感じて競争意識はすっかり鈍った。法律的には剃刀のような鋭さを見せるのだというが、見たところ、まるで牛のように重厚であって無精髭も剃らずに、バスとソプラノの混じった、奇妙な声で話をするのである。
 
 p.149  
 阿部判事もまじえ、久子を加えて、私たちはホテルの内外を、虱潰しに捜しまわったが、月子の姿はどこにも見えない。

 
 p.152  
「阿部さん、あなたならどうします」
「僕はね、歩いて捜しまわるというのが、いっこうに苦手なもんですから。部屋へ帰って明鏡止水の心境になって、そうして何とか考えだします」
 これもたしかに一法であった。
 
 p.154  
「だいぶ涼しくなりましたね」
阿部判事の声であった。
「そうね。……」
…久子の答えであった。
「まあ、それはともかく、僕はあなたに、ちょっとお話があるんです。まあ、かけましょう」
 阿部判事は、沈思黙考の結果として、いかなる結論に達したか…私は興奮に胸をおどらせて彼の言葉に耳を澄ました。
「僕は、いままで考えぬいて、今度の消失事件に、ある解法を発見したんです。それをあなたに聞いてもらいたいと思って…ねえ、久子さん、あなたはこの事件の黒幕でしょう」
「ずいぶんひどいことをおっしゃるのね」
「僕はあの人が気が狂ったなどとは、まったく考えていません。しかしあの人は月を見ると、ふしぎに人が変わったようになるのです。これはきっとある種の催眠術をかけらたんだと思いますね」
 
 p.156  
「おお…」
 恐ろしそうな声が、判事の口から飛び出したと思うと…。
「月子さん、僕はとうとうあなたの体を発見しましたよ。あなたは月の世界に帰られたかもしれないけれど、地上にたしかに自分の体を残して行かれたのですね…」
 たしかにこの久子という女は、催眠術師に違いない。それから、この判事の言うことは、まるで、月子と同じような狂人の戯言であった。あげくのはては、久子の前にひざまずいて、変わらぬ会いを誓いはじめた。
ああ、この若き秀才も、ついに妖女の魔力の虜になりはてたのか…。
 
 p.159  
「阿部さんはいかがですか」
「僕はこの人と結婚することにきめました」
彼がその手を握った相手というのは…何とあの魔女、白鳥久子ではなかったか。わずか一夜にして、男の心をここまで奪ってしまったとは、なんと恐ろしい、催眠術の魔力ではないか…。
 
 p.164  
だが月子は、誰かがその変装を、見破ってくれることを望んでいたに違いない。そのために、堂々と白昼私たちの前にあらわれ、久子のふりをして私たちに話しかけていたのだ…。
 もちろん、阿部判事の愛情が、他の人びとよりも、弱かったとは思えない。だが彼が、この求婚に成功したのは、ほんのちょっとした時のはずみに過ぎなかったびではないだろうか。
 
     
   TOP  
   editornote index  
   HOME