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曜日 |
日記本文 |
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| 1959.10.1 |
Thursday |
le 1 octobre jeudi
◆今日は10月1日。今年ももう十月である。
知らぬ間に時はたつ。時と私の追いかけっこ。
鬼になるのはいつも私。遊び相手としてこれほど嫌な奴はいない。
◆映画「悲しみは空の彼方へ」(imitation of life)50円。
Imitation of Lifeというのが原題である。原題は黒人を白人と偽って生活するサラのことを言ったものか、演劇にのみひたすら情熱を燃やし続けるミディラのことを言ったものか、おそらくその両方を指しているのであろう。あらゆる人間に理想がある(少なくとも、あった)。だが、理想はしばしば充たされぬまま葬り去られてしまう。また、理想をせっかく実現できたとしても、すべてが理想的な状況になるとは限らない。理想への情熱は一面美しいのだが、また一面醜い面もある。まるで”将棋の駒”のように自分の理想のためには他人を扱いかねない不幸なことになる。
なまじっか白人同様の肌をしているためにwhiteになりきることがサラの理想である。そのためには母親さえも邪魔な存在でしかない。虚偽の生活を理想のために送り続けなければならない不幸は言いしれぬものであろう。
私は溢れてくる涙を抑えることができなかった。確かにいい映画である。
「悲しみは空の彼方へ」という日本語訳がはたして当を得たものか疑わしい。黒人問題に対する示唆に富んだ映画であるし、人間的な幸福とは何かを考えさせる映画である。
もう一つ文字通り舞台裏のミス・ミディラの生活と幸福の追求があったらと、少々突っ込みが足らぬような気がする。7年もの舞台生活における彼女の状況はまったくあいまいで描き足りない。彼女のその間の生活を描くことによってImitation
of Lifeにより深く迫れたのではないか。テレビで「旧友」という映画を見たが何となく同じ匂いがした。 |
| 1959.10.2 |
Friday |
◆最初の日。それは、心待ちする日。何の最初だっていい。最低条件、最初でありさえすれば、心楽しい日。なんだか落ち着かない日。走り出したくなる日。
家庭教師の最初の日。出だし上々、と言っておきましょうね。上々なんですもん。本当に上々だったんですよ。信じてくれない?それじゃ仕方ない。もうこっちだけの話。ラ、ラ、ラララー。
克彦君は最初からお休み。今日の大雨でびしょ濡れ、風邪引いちゃったですって。まあ、お大事に。月曜日にね!
だから今日は啓子君一人が相手。一人だととっても楽。彼女そんなに頭悪くないし、やらせりゃ出来る。自分一人でやるってところが少々足りないんだな。依頼心が強いんだって。一人っ子ってものはどうしてもそうなっちゃうよね。克彦君も一人っ子。世話をやかせちゃうだろうな。まあ、すっかたなかんべえさん。
◆水害地の人々に何という無情の雨だろう。一日中晴れ間もなく降っている。秋の雨。冷たい雨。肌にひやりとする風を含んだ雨。一日中薄暗い。一日中気分が冴えない。一日中雨空を恨む。
10月2日。今日一日は雨の中に薄暗く消えていった。雨水の流れの中を落ち葉が走っている。冷たく光って、黒く汚れて。
秋の雨。また秋は深まっていく。
◆今日の買い物
騎兵隊のシナリオ 100円
ドイツ語のラジオテキスト 30円
フランス語のラジオテキスト 30円
ノート 45円
騎兵隊の英和対訳シナリオはもちろん英会話のためのもの |
| 1959.10.3 |
Saturday |
le 3 octobre
◆”Les Cousins"の特別試写会の招待券を手に入れた。10月5日第一生命ホール。フランス映画の新しい波を充分に見てきたい。(Remember.券は皮財布の中)
◆大声でやかましくしゃべっている。その奴を癪に触る奴だと思っている。適当な大きさで「エヘン」と咳払いする。もちろんしゃべるのを止めようなどとは考えてのことではない。単にお前はおれの犠牲の下でしゃべっていていいのだぞとちょっぴり知らしめればそれで用は足りる。だが、奴がぴたりと話を止めてしまう。咳払いした方があわててしまう。そして大概はそうだが、強がりを言う。
「うるさいぞ」
心の照れを抹殺しながら。苦い、苦い。
◆すごく素敵なセーターを買った。
チャコールグレイに白と薄いグレイの縞模様の入ったやつ。
これを着るといかして見える。
2200円なり。
外出したくなるようなセーター。映画見学、バイト、通学、どこに着て行っても不調和でなく、魅力のある、世にも希なるセーター。
それぞ我がセーター。
◆重馬叔父さんのところへ行った。
碁2勝3敗 |
| 1959.10.4 |
Sunday |
le 4. octobre
◆朝6.40起床
12:00まで庭球練習
3:00までラケットガット張り
5:00まで村田君と将棋。勝つ。
夜、風呂、
で、今日は勉強らしい勉強は出来なかった。
合宿は13日まであるが、私は練習だけなら出るつもり。
◆私の非社会性。非協力性。非計画性。
ああ私は合宿に参加せぬ。
週三日のバイト。
明日は映画見学。 |
| 1959.10.5 |
Monday |
le 5 octobre
◆私の両手を広げて待っていたのだ。彼が与えてくれる好感を。だが、およそ好感のひとかけらも私の両手はつかみ得なかった。彼とは、バイト先の男の子の話。得意なはずの数学の易しい問題が30分かけても解けない奴なのだ。口だけは達者。一、一反対する。人を馬鹿にしたような曖昧な答え方をする。知識を(それもお粗末極まりのない知識を)誇示しようとする。
全世界が彼には好感を感じ得ないであろう。恐るべき奴なんだ。もちろん、私のバイトに対するまた行きたいという欲求が完全に失せてしまったわけではない。いや、あの女の子の存在は私にまだまだ楽しみを与えてくれる。今日も楽しかった。彼がやってくる8時10分までは完全に楽しかった。
奇妙な取り合わせ。どうして、こう好感と嫌悪の相対立するカップルを私は教えなければならないのか。いやいや人生と言う奴は!
◆映画"Les Cousins" |
| 1959.10.6 |
Tuesday |
le6 octobre
◆丸一日、ラケットを振り続けた。
マメの数は激増。小指にまで出来た。掌にも。
当たりは悪くない。人当たりは少々悪いが。
余計なお節介焼きは多いものだ。
◆榊原君、佐藤来君に会った。
佐藤君の家に遊びに行く約束をした。
榊原君はパー券を買ってくれと言うのだ。
200円は痛いので断った。それにまだ良く踊れないし。
◆佐藤君は北海道の端の辺村の先生になるのだという。彼の野心なのだそうだ。そこまで踏み切れる彼には頭が下がる思いがする。私には私なりの野心があるし、人それぞれ進む道が異なって、当たり前だろう。だからといって彼は彼の道、私は私の道と言いきれぬものがある。彼の道は最初から献身的な要素が強い。私の場合ははたしていかほど献身的な面を持っていると言えるだろうか。
私は政治家になりたい。そして日本を立派な国にしたいと思う。少なくとも政治家に対する現在の不信の念を国民から拭い去るべく、政治家たりたい。私の野心はこういう種類のものだ。まったくの野心。文字通りの野心なのだ。
だが、佐藤君には現実性がある。手を下ろせば、そのまま実ってしまう種類のものなのだ。辺地教育、そこには人材はなければならぬ。一面、やりがいのある仕事かも知れぬ。だが私の性には合わない。だが彼なら黙々とやるだろう。そしてその研究成果を着々と現すに違いない。私はその日の彼を期待する。毎日図書館で勉強している彼。辺地の子らは、彼を心から歓迎しよう。その日のために彼の準備は充分すぎるほどに進められつつあるようだ。 |
| 1959.10.10 |
Saturday |
le 10 octobre
◆月〜金 pm.11.00~11.30 das Deutsch,Le Francais講義
土、日 pm10.30~11.0 百万人の英語(文化放送)
毎日 am0.15~ English Hour(ラジオ東京)
日 pm6.30~7.00 映画の時間
月〜土 pm6.00~6.05 English News(NHK2)
日 pm6.05~6.30 日本を楽しみましょう

◆何もしないでも一日は終わる。一日は決して何かをすることによって一日となるのではない。人が何かするのを待ってくれる親切な時間があるのなら、我々は決して歳を取らないだろう。一日一日速やかに、永遠に、時は失われていく。こだまなき世界へ。le
silence eternel de ces espaces infinisの中へ、時は失われていく。
今日もまた。おお、この「また」の意味する悲しさよ。また、明日も「また」と、私はくり返し続けるであろう。
今日もまたむなしく終わりぬ。明日もまたかくありなん。
◆

今日も半日ラケットを振り続けた。マメの中のマメの中のマメの中のマメをつぶして地を出しながら、一打一打に顔をしかめながら、今日も半日ラケットを振り続けた。そして、今日は終わった。
◆思索なき一日、それは死んだ一日である。
思想なき人間、それは死んだ人間である。
◆山下先生の第二学期の教科書Ein Aschied 100円。
世界11月号 150円
「安保改定ハンドバック」読破
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| 1959.10.10 |
Saturday |
le 11 octobre
◆六大学野球 東大ー法大観戦 1-0で東大惜しくも敗る
◆映画「旅」と「大運河」
「旅」は準佳作、「大運河」は凡作。 |
| 1959.10.19 |
Monday |
le 19 octobre
◆おお、この夜、秋の寒気の厳しさよ。
午前1時5分。就床前のしばらくを今宵、また、君と。
久し振りですね。11日から今日までの7日間、どこに吹っ飛んじゃったのかな。台風18号も今日消滅してしまった。
この頃まったく嫌な日が続くなあ。
雨と風と、暗い陰気な日。
今日の夜空は晴れている。
星のキラキラした輝きって冷たいね。
ちょうど今日のこの寒さのように。
ずいぶん揺れているんだ、あの光、風に揺れているのかな。
あの冷たい風に、寒い、寒いって。
星の光って本当に冷たいね。
◆明日一日切りの秋休み。
まったくがっかりしちゃうな。
全然何にもしなかったんだもの。
本当にがっかりだよ。
畜生とどなりたいね。
あれもしたい、これもしたいって、
言っていたんだ、この休みが始まる前は。
薄志弱行の輩ってわけだな、
何にも出来なかったのだもの、
まったく嫌だね、しょげちゃうね。
でも、これからだね、
がんばろうよ、
取り返しはきっとつくよ、
がんばりさえしたらね。 |