昭 和 六 十 二 年 十 一 月 二 十 六 日
雲低く寒々として晩秋の朝背を丸めオフィスへ急ぐ 体裁を繕うことば続ければ体裁だけしか言えなくなるよ
なんだかだ上司の言うも存在の価値の欲しささ許してやるか この俺もショスタコービッチ同様に押し倒されればまた起き上がる 容れられぬことを恨むな同質でない才能を秘めたる証拠 一本のスプーンですくう土くれに五十億越す微生物すむ 人間の知ってることはごく僅かその僅かさのごく僅か知る
つん読の本のみ増えたわが書棚見るたび読もうと誓えどまた増ゆ つん読の本の多きにこの頃は古本屋さえ足繁く通う 粘りさえあれば負けとはならぬもの粘っていこうまだ五十前 やったるぜこれから五百首この調子きっと拓かん新たな世界 新宿で四割引きのラジカセを見つけて小踊り狙いの商品
ながら族四割引きのラジカセを息子は鳴らして試験勉強 ラジカセは重装備にてVHF UHFにオートリバース
マニュアルを覚えるだけでも大変と妻はラジカセつくづくながむ 車内灯暗きに目玉いからせて歌書きつける執念深く 車内灯暗きに痛き眼を凝らし歌を詠みつぐとらわれの身よ
昭 和 六 十 二 年 十 一 月 二 十 七 日
小説についひきこまれ午前二時寝つけば今朝のまぶたは重く 雨降ると予想の続けど当たらずに週末になり当たる雲行き 美術品あさりを続ける日本人偏執狂と仏紙批判す
仕事場の付き合いだけじゃ淋しいと言いつつわれは一歩も動かず 肩書のある人々の付き合いの広きを羨む手をこまねいていて
地価高騰政府競売国有地高値落札利益莫大 俺の見る世界の狭さつくづくとオフィスの窓から空を見上げつ 高速道入口近く警察は装甲車止め交通妨害 赤軍の丸岡逮捕顔つきのすっかり変わり別人の風 警官は肌寒き中直立の姿勢で立てり前向いたまま 肩書で私生活まで切り回す人の多くて文化劣国 美しき歌手の歌えるつややかな声に心の震えを覚ゆ
のびやかなソプラノまるで天上の高みに我等をいざなうごとく モーツアルトこの天性の音楽家心の機微をたくまず歌う 三時間長い会議の司会役寝不足たたり脳の痺れる
取り返しつかぬ言葉と知りつつも感情激してまともに浴びす 一体化好きな日本はむりやりに内鮮一体創氏改名 満ち足りた顔に一点陰り差し眉ひそめたる毛皮の女 長姉は五十四次姉も五十にて我上京時の母上回る
雨の中銀杏の黄葉鮮やかに明るい日差しの差しているよう
昭 和 六 十 二 年 十 一 月 二 十 八 日
週末の雨を気にするせいなのか今年はやたらと降られた気がする 何やかや理屈をこねては自らを正当化する人間の性 二千円のスピーカーとは思えないチェロ協奏曲のオフィスにながる レンデルのきめの細かな描写には人を引き付く力の潜む ストーリーにさして新味はないけれど心理描写はさすがレンデル 売り込みが激しかったという人の病気の癒えてやっと復帰す 売り込みが功を奏すも発病しやっと復帰す顔色さえず
売り込まずただぼんやりと異動待つ男の買われる望みは薄い 一年後いや一月後この俺がどこにいるやらわかりもしない 発令の三日前まで何知らず名刺を増刷した時もある
それぞれの組織の巨大になりすぎて何も知らない人が人事す 麦飯の弁当周りにはじらいて腕で隠して食べた日遠し 読めぬほど本買える今なけなしの金で買いたる本はなつかし
若い日の母の右足はねあげた写真のありて理由を思い出す 歌詠めば知らないうちに時の経ちふと目をやれば外は暗闇 重箱の隅の権限振りかざす蔑みの目も通じぬてあい なにもかも五七五で詠む癖の五百首越えればさすが身につく 次々と追加資料の注文で宿題減らず増えていくだけ
昭 和 六 十 二 年 十 一 月 三 十 日
難敵に逆転勝ちでネット越し握手する手に力のこもる 零三のリードを必死に逆転し六五で勝つテニスの醍醐味 三子局みごとに勝てばしみじみと強くなったと女流本因坊 その話聞かなかったと言う上司に話した状況思い出させる
昭 和 六 十 二 年 十 二 月 一 日
燃え上がる命の炎歌わんと熱き言葉を胸で手探る ほとばしるものがなければ歌などは詠むかいないと言う評者あり 妻も子も気を病みおればストレスの首の回りにしこりを作る それぞれの明るい面を見つめれば妻子の病もまだ救いあり 街路樹は師走の雨に色褪せてただ寒々と肩をすぼめる
あの顔が瞼に浮かぶ黄葉の落ち葉の中で微笑みし娘( こ) の 伏目がち言葉少ない娘にはこの世はいかなる色にて見える
結局は呼ぶんであれば最初から声を掛ければよさそうなもの おしまいにもうなったのか気がつけば一月以上も電話もかけず はじけちる火花のように我が胸は燃えているかといまも自問す あれほどの人と思った人だけどそれほどのことなく生きている様
つらい目に合ったことない幸せな人にはいえない身を切るつらさ ひんやりと師走の雨に負けぬほど心は凍え体は震える さむざむと師走の雨に負けぬほど心の景色冷たくけぶる さむざむと心の景色けぶるほど師走の雨の街路を濡らす 冷え冷えと師走の雨に負けぬほど心も身体も冷えきっている
昭 和 六 十 二 年 十 二 月 二 日
キンピカの楠樹病院混み合って流れ作業の人間ドック 一日のコース選べば前夜から造影剤呑む人間ドック バリウムを口に含んで一息に呑み込む様をレントゲン撮る 縦になれ身体をひねれ横になれ息を止めよで胃を撮影す 様々な検査が終わり異常無く昼食美味し天麩羅定食 秋晴れのごとき師走の大空を四十九階の食堂から見る 秋晴れとみまごう師走の大空を五十階から眩しく仰ぐ
こんなにも自由な時間はないものと検査終わって一人ぶらつく こんなにも自由な時間はくつろぐか一人歩きつつくづく感ず くつろぎの午後を過ごして帰宅する不機嫌顔の妻の出迎え
昭 和 六 十 二 年 十 二 月 三 日
不機嫌をそのまま顔に妻迎ゆ話したきことたちまちしぼむ うっかりと忘れた義母の誕生日遅く帰れば妻は不機嫌 腫れ物に触る思いで妻といる俺も疲れた逃げ出したいよ 感情の起伏激しく子供らも妻の機嫌をいつも伺う 感情の起伏のあまりの激しさに妻を子供も半ば敬遠 思いやりある人だけに取り巻かれ苦労知らずに妻は年老う 不機嫌を他人のせいにし顔に出し人の気持ちを重くする妻
自らをつきはなし見る眼を持てば妻はもとより周り救わる 自らをつきはなし見る眼を持てば妻はもとより周りが楽に 両肩を落とせる妻は堪え難い思いを必死に堪えおる様子
これ以上重みの掛かればたちまちに崩れ落ちげな妻の両肩 両肩に掛かる重荷を顔ゆがめ必死に耐える妻のいとおし
省略をうまくやるのがなかなかに難しいかな字余りの歌 官僚の書いた原稿棒読みの竹下総理にいらだち覚え
昭 和 六 十 二 年 十 二 月 七 日
歌を詠む暇ないままに一日の過ぎ行くさまを歌に詠む我 開戦の記念日すでに古めいて十二月八日もただの一日
昭 和 六 十 二 年 十 二 月 九 日
気に入った笑顔を作り女子プロはカメラの前で気軽にポーズす 一枚が二千円也原稿料物価あがれど長く据え置き 小遣いの足しにと稼ぐ原稿料たまに家族を食事に誘う 今月は原稿三本頼まれて我が小遣いもいささか潤う
わざわざに編集長が原稿料届けてくれて四方山話し 月曜の締切多く日曜はテニスの後でワープロを打つ 忘年会二次会へ行けば花金で帰りの車やっと掴まる ワープロを打てば時間はとく過ぎてつい夜更しし寝坊の報い 学校に行く気になれず一日をパズルで過ごす娘はあわれ
ちょっとした言葉のもつれをいつまでも心に止めているらし妻は 上滑りするような気のセリフだと「危険な戯れ」見ながら思う 上滑りしたセリフだとなんとなく「危険な戯れ」見ながら感ず
観劇が終わってさがすレストラン六本木界隈人数多し 六本木あたりを歩くヤングギャルさすがに生きの良さは格別
演出もやや上滑りカワードの苦みを出すにちと真面目過ぎ 俳優もやや真面目過ぎカワードの苦みを出すにちと上滑り 原稿に示す態度で編集者の素質すっかり分かる気がする 次々と飛行機事故の相次けばやや報道も通りいっぺん INF協定調印ワシントンお祭り気分まずはめでたし
学校へ行かず一日パズルやる娘の気持ち推し図りかね 縁日の十日になればミュージックテープ買わんと勇んで出掛く 肩書でしゃべれど中身はおそまつで迫力魅力もまるで乏しく OBの訃報に接し一日を豊かに送るが勝ちと悟れり
社長業勤めるOB脳溢血ただ忙しく人生終わる
肩書は豊かなれども私生活潤いなくばなんの人生 クリスマス・ソング集めたカセットをBGMで流しつつ勉強
多過ぎる書籍に書斎狭くなり足の踏み場も文字通りなし 買い溜めた本を眺めて溜め息をつけども本をまた買ってくる 一冊の本には一つの宇宙あり覗くだけでも楽しと思う すさまじい眠気は昨夜ワープロをつい夜更けまで叩きしせいか 大あくびふと目の前の鏡見て途中で止める口の大きさ スタートの前は九十切るはずが百さえ切れずビールは苦し
最終のホールで優勝の声掛かり多叩きして泣くにも泣けず バザールで買った背広は三千円使いべりせずいたく愛用 三千円の背広と見えぬ着る人が着ればと言いつ今日も着用
昭 和 六 十 二 年 十 二 月 十 日
忘年会二次会行けばカラオケで点数の出る機械のありき 思わざる点数評価でカラオケの上手のはずが下手と言い合う
思い切りいいのが俺の身上さやるべきことはとにかくやるさ ふらふらとつい眠り込むカラオケで睡眠不足頭は重く 深夜過ぎ眠ったとがか歌詠めどただの一句も思い浮かばぬ 胃の中になお水割りのだぶついて頭にカラオケ仕事にならず 生命の機能低下をつくづくと感じた時代にくらべりゃ元気 宝籤当たる前から賞金のわけまえ巡り親子で口論
最初から当たったつもりで宝籤親子でわけまえ巡り口論
例によりミュージックテープ六本を買えばおまけに一本サービス
昭 和 六 十 二 年 十 二 月 十 一 日
円高の勢い激したちまちに百二十八円台へ突入 三日間世界の耳目をそばたてて米ソ首脳の会談終わる ミュージックテープ六本四千円毎月買えば一本おまけ 棋聖戦加藤名人挑戦権小林棋聖難敵迎ゆ 棋聖戦加藤名人挑戦権現四冠王さすがに強し 日系の三世イシイ賞金王尾崎将司わずかに及ばず 大迫は最終戦で逆転し日陰を抜いて賞金女王
片づけるより早く書類増え机の上はますます手狭 様々なアイデア浮かべどそれっきり立ち消えになりまた思い出す あっさりと最高値更新円高は行き着く先の見通したたず 米国の貿易赤字最悪で円は最高値あっさり更新
昭 和 六 十 二 年 十 二 月 十 四 日
特大のスピーカー鳴れば重低音身体まるごと揺さぶる如く AVの装置見事な陣容で画像と音響の迫力凄し
想像を絶するほどの重低音芯から身体震える如し 日曜日ごとに雪降る東京は師走ながらも真冬の感じ 雪の中サッカー選手は泥まみれ滑って転んで笑って泣いて
世界一決めるサッカー雪の中延長戦でポルト辛勝 がむしゃらに前へ前への日本人ときにはゆっくり休みはいかが
昭 和 六 十 二 年 十 二 月 十 五 日
夜八時品川ホテルでテニスする外界はみぞれ木枯らし吹くも 釣り上げた魚のようにイキイキとデートの余韻が躍動している 白鳥がただの烏にかえるときわが熱き思慕むなしく消える
昭 和 六 十 二 年 十 二 月 十 六 日
歌一つ詠まないうちに日が暮れて物足りなさで心が渇く 人間の大きさなどはなにもかも容れればいいと言うものでない 人間の小ささ不意に気付くときされど大きく出来るものかは 人間の小ささ不意に気付くとき我より小さき人にも気付く
我よりも小さい人の多くして見せ掛けだけで踏ん反り返る 新婚の二人は頬を染めながらニュージーランドの印象話す 旅ゆけどニュージーランドも到るところ日本人客で溢れていたと
知らぬうちランプの消えてそれぞれに家路に急ぐときの来にけり 様々の本読む楽しみ絶ち難く本屋に行っては衝動買いする
昭 和 六 十 二 年 十 二 月 十 七 日
突き上げるどすんどすんと音がする地震だ一瞬言葉が凍る テレビつけ地震情報に耳すます東京地方は中震四度
エレベーター止まっていますとアナウンス防災センター直ちに稼働 高速道速度制限通行止め十一時八分強震襲う 幸いに大きな被害はない模様地震速報にややほっとする 韓国の大統領選盧候補がはや当選の勢い示す
昭 和 六 十 二 年 十 二 月 十 九 日
記録なく日のすぎゆくをそれなりに無事と尊ぶ気持ちになりぬ 寝付きつつ作った歌をあれこれと思い出さんと努めど虚し
年賀状まだ案もなくあれこれと龍のデザイン考えている
昭 和 六 十 二 年 十 二 月 二 十 二 日
バタバタと日は過ぎゆきて歌詠みの習い危うく消え去らんとして 義妹一家アメリカから来訪
成田にてライトナー一家を迎えれば二才のフイリップ「ヘロー」という 三才のマリコと二才のフイリップ小さい顔にちゃめっけ一杯 「ヘロー」と二才足らずのフイリップなきべそかいて挨拶をする
「コントロール・ユア・チルドレン」とデーブいうケイコ鼻白み子供を叱る
フロアショウカーニバル姿のジャクリーヌに引っ張り出されてサンバを踊る 習いたてポルトガル語の卑猥語でブラジル美人ときわどい会話 大声をたてて笑いつジャクリーヌ横目で睨むなまめく瞳
昭 和 六 十 二 年 十 二 月 二 十 三 日
お祭りの騒ぎと変わらぬ一週間予算折衝ダラダラ待機 お祭りの当日なれば徹夜もし予算の内示慌てず待たん 予算案策定過程はドロドロとダラダラの渦体力勝負 阿呆らしと思えば白けることばかり予算折衝徹夜の待機 万が一恐れる役人根性で要らぬ人まで徹夜の待機 酒飲んで予算の内示待ちおればいつしか夜も更けて深更
一国の総理が良きにはからえで世界に伍してやっていけるの
クリスマスシーズンだけど予算時期家庭は忘れオフィスで徹夜 クリスマスどころか土日も返上で予算予算で年も暮れゆく 阿呆らしい制度をむしろ押し戴きありがたがらねばならぬ日本
どの国にも阿呆らしきことあるが常されど限度は弁えている それぞれの思いを込めて年の瀬を雑踏の中に身を委ねつつ それぞれの思いを込めて年の瀬を人の流れに身を任せつつ 夜も更けて予算の復活要求の資料づくりに頭動かず
あれやこれ思いついてはすぐ指示す上司の尻拭い疲れるばかり あれこれと気をまわしては指示をする上司の癖にうんざりとする 殺された夫のために抵抗の戦い続けるチリの女たち
昭 和 六 十 二 年 十 二 月 二 十 四 日
寝不足の頭でやるのでエイッヤーと予算原案まとまる趣 小さめのクリスマスツリープレゼントの山にチョコンと乗ったるごとし それぞれに無理している様示さんと十二時過ぎてもひたすら粘る 大木の小枝撓ませ大柄の鳥戯れる朝ののどかさ 正論を吐けばアメリカの味方かと潰しにかかる心の狭さ 右腰の鈍い傷みに寝不足の重なりあって優れぬ気分
人混みにつっこまんばかりにオートバイ急停車するとてもじゃないや クリスマスイブなど異国の風習さ予算の最中寝惚けちゃ困る クリスマスイブなど我等に無関係予算だ予算だ予算が通る 今頃はクリスマスツリーに灯を灯し賛美歌などを歌っているか
昭 和 六 十 二 年 十 二 月 二 十 五 日
ようやくに家に帰ればパーテイの余韻を顔に皆が出迎う 口々に楽しかったとパーテイの余韻を顔に皆が語らう 次々にプレゼント貰いターキーをベリージャムで食べクリスマス気分 クリスマスアメリカ流のやり方をデーブ持ち込み楽しさ倍加 久し振り国へ便りを認めて老いたる父母の寂しさ思う 娘や妻の気を病みおれば両親へ便り書く気も長く起こらず なんとなく便り認む気の起きず父母思う度済まぬと感ず 思わざる臨時収入四万円出版社から何よりの使者
昭 和 六 十 二 年 十 二 月 二 十 七 日
日曜日だけどオフィスで待機する予算大詰め大臣折衝 体から疲れの滲みでるような生あくびする繰り返しする ひたすらにただ待ち続くそれだけでむしろ心の草臥れて来る 最終の内示を受けるそれだけで全員待機し夜もふけてゆく 空腹と疲れと虚しさ折り込んだあくびのやまぬ予算大詰め これほどに無駄なエネルギー費やさせる予算制度の何時まで続く たとえよく予算はとれても虚しさは心の底に澱み残らん
「二回り上ね」と言われてしみじみと娘のような人を見つめる わが胸で妻は激しく泣きじゃくる「娘は本当に治るのかしら」と 絶対に治ると両親( ふたり) が信じねば決して癒えまい娘の病
「どうしたらいいのか何もわからない」嗚咽する妻ただ抱き締める 現実がふと夢に見え語呂合わせ得意な娘がそこにいる気に 現実がふと夢に見えニッコリと微笑む娘が目の前にいる 現実は気を病む病の症状を行ったり来たり彷徨う娘
発病の前の娘も娘ならいま気を病んでいる娘も娘 発病の前の娘と比べるな妻にも言いし我にも言いし 暗い歌詠むのはよそう病癒え懐かしく思えるいつかそんな日 隠された愛を貫く理知秘めたまなざし眩しそっと目そらす
燃え尽きた恋のなきがら葬らん「好きだよ」という言葉を添えて あり得ない想像上の恋なれど恋を思えばふと気が休む 溢れ出る若さと理知とを兼ね持った大きな瞳を脳裏に描く 来年は龍年なれば年男四八歳抵抗の年
行く年を半ば惜しみつ来る年に期待を掛けてよい年になれ 身の周り見れば新年迎えるにほど遠き風資料散乱 地球号五十億年生物は二百万種絶滅進む 人間の文明地球環境の破壊を自ら食い止め得るか
昭 和 六 十 三 年 一 月 五 日
十日振りワープロに向かい作歌するたまたま今日は我が誕生日
百二十円四五銭で大発会波瀾の幕開け外為市場 円高に株価値を下げこの年は波瀾含みでスタートを切る 三賀日は小春日和の上天気テニスコートに連日通う 半袖で寒さ感じぬ小春日和テニスボールの弾みも軽く 自閉的行動をするその割に友の少なさ憂える我は
気の向かぬことにいまさら無理をしてエネルギー割く愚を慎まん やりたいと思わぬことを無理矢理にやればそれだけ神経摩耗
好きなことだけやっててもそれなりに生きていけるさ気軽にいこう 自らにただ忠実に生きていく肩書名誉に恋々するな 年をとるたびに思うは気を回すほどには老ゆるものでないと
誕生日四八年生きてきてやはり生きててよかったと思う
昭 和 六 十 三 年 一 月 六 日
この世には明日のわかる人はいぬそれぞれ毎日処女地開拓
昭 和 六 十 三 年 一 月 七 日
もう七日とんとこ月日は過ぎていく何もせぬまま何もせぬまま 水商売から見た日本の原風景面白くもあり哀しくもあり 頭から湯気たてんばかりに怒る人我が意気萎えてじっと俯く
頭から怒ったところで世の中が変わるものではないものなのに
長崎県代表国見高校決勝へ
昨年と同一チームで決勝戦高校サッカー球趣高まる 国見対東海一校昨年の熱戦越える試合を期待
昭 和 六 十 三 年 一 月 八 日
激戦を制して国見初優勝小嶺監督胴上げに舞う 雪辱を果たして国見堂々の優勝選手の笑顔爽やか 全国の覇者を讃える優勝旗国見の主将がっちり握る 監督の力量冴えて優勝旗国見の上にさんと輝く
昭 和 六 十 三 年 一 月 十 二 日
様々の人の勧める様々な本読む時は楽しからずや 疲れたと言いたいこころに笞打って急かせるなかれしばし憩わん ぼんやりと座っていたい世の中が進むも退くも全て忘れて 三学期休学をするわが娘ほっとしたかの様子も見える 休学の願書を揃える妻の顔やつれの影がベールを紡ぐ
起きれないのに起きているそれだけで惚れ惚れするとカウンセラーいう 起きれない人が起きているそれだけで惚れ惚れすると思いませんか 流石だとカウンセラーに感心す妻起きれぬと相談をして
ぼんやりと座っていたい気持ちする朝の一時呼び出し電話 食い過ぎと自ら思いつ食欲のおもむくままにひたすら食いぬ
「あなたったら」非難を帯びた妻の声聞いた気がして夜半に目覚む 一日を平常心で送るだけただそれだけで尊しと知る 卓上の電気掃除機貰ったが吸い取るほどの塵見つからず
昭 和 六 十 三 年 一 月 十 三 日
進学の相談を受けわれしらず世間知語る親父になりぬ あるときに必死にならねばこの世では人並み以上の暮らしは出来ぬ 首都圏の宅地七割り上昇で無策のつけを庶民がかぶる 卸売物価連続五年間下がり続けど地価は暴騰 顔広い噂の課長はあちこちのつけまわしくる常習犯なり
広い顔売りものにしてあちこちのつけ回しくる課長はやりて 大物風エヘヘと笑い油断なく周りを見ている目小心語る
大物風巨体を揺すりエヘヘヘと笑いつつ周りを油断なく見る
大き目のあくびを一つ空中にゆったり放つ午後のひととき 皮むいて食べんとすればその刹那ポロリと床に落花生落つ 腹をたてぐたぐた話す自らの口調に愛想も尽きる思いす なにもかも中途半端で神経の草臥れていく音の聞こえる
大空を見上げよ今日もきらきらと陽光きらめき鳶弧を描く 様々なリフィル工夫し一日の行動残らず記録にとどむ 連載の原稿一気に読み通す重複あるも力感溢る 月々に二十四五枚連載の論文書いて半年過ぎる
昭 和 六 十 三 年 一 月 十 四 日
こだわらぬ気持ちはあれど同期会格差ついたとつくづく感ず 欲目にも高いと言えぬ自らの評価思えば意気は上がらず 他人は他人自分は自分人知れず得意の分野持つを誇れや 人生は八十年時代このさきにまだ三十年ありさあこれからだ
それなりに人脈つくり世慣れいく同僚見上ぐまぶしく思い 何もせず手を拱いている自らをもどかしく思えどやる気になれず 深い淵の水底にじっと潜みたる山椒魚の心地味わう
昭 和 六 十 三 年 一 月 十 五 日
どの人も一回限りの人生の日々あらたなる体験をする
昭 和 六 十 三 年 三 月 二 十 三 日 午 後 六 時 四 十 一
退院の娘迎える父親の心は揺れる期待と不安に 意地を張る車と車交錯し横断歩道で悲鳴の上がる
昭 和 六 十 三 年 四 月 八 日
雪の白と桜の淡き紅色の妍競い合う春の大雪 咲き染めた桜も春の大雪に枝たわませて悲鳴上げちょう 花祭り思わぬ春の大雪で季節はずれの雪見酒かな
昭 和 六 十 三 年 四 月 三 十 日 八つ岳泉郷
さやさやと木々を渡れる風さやかわが目覚め良き高原の朝 夜更けまで降りにし雨の痕もなく空青みたり高原の朝 夜更けまで雨降りにしを目覚めれば空晴れ渡る山荘の朝 樹の影の障子に揺れる山荘の朝のひととき鳥の音を聴く 「良く寝れた薬を飲んだ時よりも」高原の気は娘癒せし
昭 和 六 十 三 年 六 月 一 日
人事異動の季節となりぬ何時内示あるやも知れず落ちつかぬ日々
電話取る度にもしやと胸痛く締めつけられる異動の季節
昭 和 六 十 三 年 六 月 六 日
心臓を締めつけられる思いしつつ異動内示の部屋に入りぬ
権威ある人事権者の広き部屋ソファーの端に我は座りぬ
権威ある人事権者に明日の身さえ握られている無力さ思う
年次では高々五年か違わぬが人事権者は雲上の人
権威ある人事権者はゆったりと異動内示で呼んだと言えり
札幌へ赴任の内示聞きながらまず思いしは病める妻と子
評判がいいのでせいぜい配慮したいいポストだと内示者は言う
望外のポストと言うべしわが評価長き年月身に染みおれば
有り難きポストであれど病める妻子思えばわれのみ喜ぶべきや
良きポスト有り難けれど病める妻子残して独り発てるものかは
病める家族抱える事情率直に話して異動先の変更打診
良きポスト有り難けれど病める家族抱えておれば考えたきと
わが弱き立場知りおり無理言えば良きポストなど遠のくばかり
栄進と家族とどちらが大切か問われて言下に家族と答う
一日の猶予を上げよう無理ならば別のポストもと人事権者言う
せっかくのいいポストなら一人でも頑張ると言う妻は健気に
昭 和 六 十 三 年 六 月 七 日
一日の猶予を貰い妻子とも相談のうえ札幌行き受ける
昭 和 六 十 三 年 八 月 一 日
妻と娘(こ)の訪ねて来たりそれだけで嬉しさこみあぐ顔色冴えねど 支笏湖は波穏やかに静まれりたたずむ妻子見飽きぬ風情
昭 和 六 十 三 年 八 月 三 日
着任後のにわか仕込みの知識もて妻子の案内喜々として務む
昭 和 六 十 三 年 九 月 十 五 日 窓揺らす小さき音にも寝つかれず暗闇の中じっと窺う
昭 和 六 十 三 年 十 一 月 二 十 日 冷えきった家に帰りてオーバーの襟立てたまま料理す単身われは
朝出でし時と寸部も変わらざる散らかりし部屋寂しさ募らす
単身は寂しき面はあるものの煩わしさの減る面もある
昭 和 六 十 三 年 十 二 月 九 日 月一の定例会議で上京すわが家の灯(あかり)にふとこみ上げるもの
にこやかに玄関口に出迎える妻にも少し照れし風あり
久しぶり妻の手作りゆらゆらと湯気立つ料理舌鼓打つ
積もりたる話は尽きず夜も更けて淋しき妻もいま燃え上がる
昭 和 六 十 三 年 十 二 月 十 八 日 十年の空白のありスキー行き自転車同様忘れぬものか
借り物のスキーウエアストックでするするすると滑りだしたり
ゲレンデに近い特典生かさずばチャレンジ精神にわかに起こる
板に靴ウエア手袋何もかも一挙に新調スキー始めん
昭 和 六 十 三 年 十 二 月 二 十 二 日 電話すれど呼び鈴むなしく鳴り続くもしやを思い胸塞がれる
平 成 元 年 一 月 八 日
斜滑降どうにかできる初心者にベテラン指導者まず転び方
絶壁をひらりと降り行く若き女(こ)にスキー初心者われ肝抜かす
平 成 元 年 一 月 二 十 九 日
休日は何はさておきスキー行き転倒打撲も何するものぞ
中年の暴走族と言われたりスピード出るも制御がきかず
息子言う受験勉強息抜きに北海道で滑りたいなと
大学に無事合格しやって来い息子よその時一緒に滑ろう
パラレルもできる息子に遅れずに滑れることが第一目標
二 月 二 十 一 日 登別温泉
温泉(ゆ) の宿の滝の音冴ゆ小夜更けてふと胸騒ぐ思う人あり 露天風呂朝方降りし雪白くたわめる枝の青空に映ゆ 冬山の雪と木々との斑織り展望台より遥に続く
六 月 十 日
折り句(稚内)
わが旅の尽きせぬ思い語らえば長き一夜もいつか白みぬ
海青く利尻の富士はコバルトに白き雪冠輝いて見ゆ
草はめる牛のどやかにサロベツの原野は広し利尻富士見ゆ
サロベツの原生花園の空広くとんびは舞えり光浴びつつ
眼の底に焼き付けおかんと遥かなる利尻の富士を機上より見る
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