即興和歌日記

 第 二 部  

昭 和 六 十 二 年 十 一 月 六 日 

〜同 月 二 十 五 日 


                                               昭 和 六 十 二 年 十 一 月 六 日

    円高く気温は下がり寒々と秋は深まり風邪抜けきらず

    株通貨お負けか気温も乱高下風邪抜けきらず寒気もよおす

    読めぬほど本買える今なけなしの金で買いたる本を手に取る

    若い日の母は美し右肩をいからせぎみに写真に写る

                                         ひじき飯毎日くらいて下痢止まず母なき家で我はやつれぬ

                                         ひじき飯食いたくないと祖母に言いきつく怒られ庭に飛び出す

                                         夕闇のややせまりたる我が庭に母を思いて空を見上げる

                                         夕暮れの空はしらみて鳥ひとつ姿も見せず静まりかえる

                                         夕空を今眺めてもあの時の悲しい思いよぎる時あり

                                         生命の叫びの母に通じたか翌日母は我が元に帰る

                                         病む父の看病の間に帰宅して我のやつれに母驚きぬ

                                         入院はリヤカーに寝てがたごとと苦しき体を布団に丸め

                                         気を病んだ父の病室えきりにて幼き我は看病受けし

                                         なけなしの金で購う高額の薬が我の命救いし

                                         病む父と同じ病室わが母は寝る間惜しんでわれら看護す

                                         我が病薬の効いて病む父を母と残して我退院す

                                         母に聞く思い出話に我が命救った高い薬のありき

                                         不機嫌が売りものなのか苦虫を噛み潰した顔で上司うなずく

                                         街路樹は斑模様に色づきて風さわさわと梢をわたる

                                         あの顔が総理になる日の顔付きか浮かぬ感じの竹下総裁

                                         円相場三日続きの最高値竹下丸の前途は多難

                                         伏目がち抱負を問われてぼそぼそと竹下総裁どこを見ている

                                         早々と閣僚名簿は出来上がり新味なきまま内閣船出

                                         恒例のテント村での熱気無く閣僚呼び込み淡々と済む

                                         内定の閣僚候補は年功と派閥均衡たくみに配す

                                         新味なき派閥人事でこれからの難局無事に乗り切り得るか

                                         山づみの難問課題軋轢を産まずに捌く見識ありや

                                         立ち勝る難問山積軋轢を産まずに捌く力量ありや

                                         寒空を凍えるほどに歩きつめコーヒーハウスでしばし休らう

                                         二千円たらずのスピーカー買い求めウオークマンにつなぎ楽しむ

                                   

                                         ファイリングシステム導入委員にてまず身の回り整理整頓

 

            昭 和 六 十 二 年 十 一 月 九 日

      求道と洒脱を巧みに折り込んで夢路へ誘う「魔笛」の調べ

                                                    天才の巧の極み快い「魔笛」の調べに夢路に遊ぶ

                                            麗しい鈴の音鳴らしパパゲーノ恋人欲しいとおおらかに歌う

                                        美しい声と調べに酔いしれてためらうほどに我を忘れぬ

                                          現実を思えば胸はふたがれるを「魔笛」にしばし時を忘れぬ

                                          

わが義兄は僧侶姿で舞台上バスのパートに没入の様

                                         

入らぬと思った瞬間快い音をたて落つバーデイパット

                                         電話にもまた出たくない症状の娘の顔の精なき瞳

                                          はらはらと針の筵を歩みいく妻子の病んでわれ迷いつつ

                                           病いゆえ優しい笑顔を失いし娘愛しく言葉ためらう

                                            健気にも耐えおる妻に優しさの欠けた言葉をかけて悔やみし 

                                         

ひたすらに生きよと願うわが娘たとえ今後もいばら道でも 

                                          超小型スピーカー買いFMのステレオ放送一人楽しむ

    超小型スピーカーなれど一人前オフィスに置いて一人楽しむ

                                         超小型スピーカー求めオフィスにてウオークマンにつなぎ一人楽しむ

                                               オフィスにてBGMに爽やかなメロデイー流す午後のひととき

                                        

 奥深い根に優しさを持つ妻といがみ合えども信じてはいる

                                         

寝る時よりもっと眠たい目覚め時布団のぬくみのことさら恋し

                                          ぽつねんと部屋にこもって一日を過ごす娘よ何を思える

                                          両の手で固いりんごを握るようにこの一時を確かめたくて

                                          強い歯で固いりんごを齧るようにこの一瞬を味わいたくて

                                         面白い本はこの世に限りなしただわが読むひまのことさら短し

                 

面白い劇もこの世に限りなしただわが見るひまのことさら少なく

            昭 和 六 十 二 年 十 一 月 十 日

  「青鞜」に「魔笛」「赤ひげ」この三日連日観ればそれぞれのよさ 

                                               お涙を頂戴しますの仕掛けにもあえなく掛かる涙もろくて

                                          高等な思想はなくも「赤ひげ」の強い生きざま心揺すぶる

                                          観劇が終われば妻と夕食をとりて帰るが通例となる

                                          青山も渋谷も装い改めて若者向きの店のみ多く

                                              劇場の内部は意匠こらせどもロビーは狭く紫煙うずまく

                                          休憩の合間に食事「赤ひげ」はさすがに大衆演劇ならん

                                         ロビーには食事の客の溢れ居て売店前にも長い行列 

                                          観劇のやや上気した気分にて渋谷を歩く妻と寄り添い 

                                          観劇が終われば妻と夕食を少々洒落た店にてとらん

                                         新しい洒落た施設の次々とできゆく東京活力に富む

                                       昼休み洒落た施設の発見が楽しみになるそぞろ歩けば

                                         ミュージックテープを月に六本ずつ金比羅宮の縁日で買う

                                        ヒューストンマイケル・ジャクソントップ・ガンビリー・ジョエルに          ボン・ジョビもあり

                      

やくざ風主人に仕える奥さんは馴染みになればヒット盤薦む 

                                        ごく安価四千円で六本のテープはよもや海賊盤では 

                                          ただ無心上がってみれば八十八優勝ベスグロニアピンドラコン

                                        飾らない言葉で心を率直に詠みたいものとひたすら思う

                                       

クリスマス・ソング集めたカセットを店員薦めるもう暮れ近く                                                  

すさまじい眠気退治に歌歌い頬を叩けどハンドル揺れる                                              

快心のショットの後の大ダフリ再度チョロしてトリプルボギー                                                  

スタートの前は狸の皮算用九十のはずが百さえ切れず                                                      

最終のホールでスコア意識して多叩きする泣くにも泣けず          

        昭 和 六 十 二 年 十 一 月 十 一 日       

ついているとしみじみ思う渋滞に合うこともなく車の進み                                                    

ついている今朝はすいすい渋滞に合うこともなく車の進む                                                    

学校へ行けず一日眠りおる娘の活力とみに衰ゆ                                                         

学校へ行けず一日眠りおる娘はとみに活力衰ゆ                                                         

新しい歌手の名前もミュージックテープ買うつどいささか覚え                                                  

あれほどの高位に登った人なれど迫力魅力のまるで乏しく                                                    

高官のOBなれど人間的迫力乏しく我がまなざしをさく           

        昭 和 六 十 二 年 十 一 月 十 二 日

       

多過ぎる書籍の整理をせんものと本棚づくりの構想を練る                                                    

買い溜めた本の多さに本好きもやや食傷し読む気の萎える                                                               

娘の学校の学園祭に行く    

バザールに手作りケーキの並ぶ中目敏く娘のケーキ見つける                                                   

韓国の踊りと歌の巧みさに一時酔いぬ学園祭                                                          

韓国の踊り上手は小三の時から励みしという                                                          

韓国の踊りに激しい動きあり日本舞踊と差異のきわだつ                                                     

韓国の踊りの動き激しくて日本舞踊と差異のきわだつ                                                      

韓国の民族楽器や衣装にも文化の高さ偲ばせるものあり                                         

 

売る側も冷やかす側ものんびりと学園祭のアンチーク市                                                     

古本の並ぶ本棚我知らず覗き込む吾を妻の冷やかす                                                       

名も知らぬ人より電話で原稿の依頼舞い込む拙文読みしと                                                    

ペンネーム使って書いたエッセイを気に入りましてと原稿依頼                                                  

筆名で書いた連載エッセイを愛読していたと人の訪ね来                                                     

拙文の感想聞くは楽しみで「鋭い」と言われ面映ゆく聞く                                                    

版元に電話を入れて本名を確かめましたと訪問者はいう                                                

熱心に著書連載誌名をメモにとり必ず読むと編集者のいう                                                    

横綱の初土俵で負け越しの大之国今日は必死に戦う                                                       

寄り切って大きな安堵の息をつく大之国まだ二勝三敗                                          

珍しく波瀾無く終え一息の九州場所はやっと五日目                                                       

引退も入団同様騒がれる江川はさすがに大物選手                                                        

マスコミを引っ掻き回して引退す入団時再現江川は大物                                                     

あっさりとユニフォーム脱ぐ決断に半ば驚き江川を惜しむ                                                    

九年の選手寿命は短くも存在感あり江川らしさに                                               

「エガワる」の新語を産んだ入団時引退騒ぎはこれもエガワる?                                                    

平然と車道を歩くポケットに片手を入れたヤッチャン二人           

         昭 和 六 十 二 年 十 一 月 十 三 日

        

金曜の十三日と気がついてふとなにかしら不吉を覚ゆ                                                      

どんよりと雲たちこめてわがだるい体の重みなおさら増すも                                           

掛けようか掛けるまいかと迷いつつ受話器の向こうに面影を見る                                                 

ためらいの強きは疲れたためなのか仕事はあるもやる気になれず                                                 

昨夜から疲れのひどく事務所でもやる気起こらずただ座りこむ                                                  

たちまちに資料の溢れる身の回り重要書類も紛失騒ぎ                                            

オーウエルは自由の意味は欲しないことを相手に言う権利と言う                                                 

文体の魅力伝わるオーウエルの評論読んで拙文恥じる                                                      

版元で筆名名指して拙文の載れる雑誌を求めし人あり                                                      

版元の電話で知りぬ筆名を名指して雑誌を買い行きし人あり                                                   

わが国の文化の担い手若者と女性ばかりで他は無関心            

      昭 和 六 十 二 年 十 一 月 十 六 日

        

小雨降りやむなく試合を中断しテニス仲間と空を見上げる                                                    

砂をまきブラッシングもいそいそとコート整備す雨の上がれば                                                  

大会も無事に終わってコート際感想語らい缶ビール干す                                         

優勝と二位とをわれと妻が取り雨のち曇りのテニス大会                                                     

知人から思いがけない誘いあり月曜の夜も室内テニス                                                      

知人から思いがけない誘いにて三日連続テニス三昧                                                       

知人から思いがけない誘いにて土日月と連続テニス                                                       

三原山一年振りの爆発に観光客の逃げ足早く                                                          

三原山一年振りに爆発し不気味な白煙山頂覆う                                                

この秋は雨の多きをかいくぐりテニスコートにしばしば通う         

       昭 和 六 十 二 年 十 一 月 十 七 日

     

三子なら勝ってみせるの意気込みにプロもまなじり上げて読み耽く                                                

中盤の勝負手不発に終わらせてプロに三子の難局制す                                                      

中盤の難関越えて中押しでプロに三子の棋戦を制す                                                       

サービスのスピンの利きで室内の空気の重さをふっと感じる                                         

スピンかけサービスすればよく落ちて室内コートの空気は重し                                                 

室内の空気の重さをサービスのスピンの利きでふっと感じる                                                   

茫然と天を仰いでワープロの入力消えた画面を見つむ                                                      

誤操作で一日掛かりで入力の短歌の失せて茫然自失                                                       

誤操作で失いし歌あれこれと頭をひねって思い出す時                                                      

この秋は雨多かれどその中を巧みに潜ってテニス楽しむ                                           

つい知らず妻のプレーにあれこれと口を出しては嫌な顔され                                                   

ことごとに人を咎めるものいいにうんざりしては上司を見つむ                                                  

何につけ人を咎めるものいいの上司は少しも笑わぬ殿下                                                     

出世した上司の理由つかめたり部下に厳しく上司に甘く           

      昭 和 六 十 二 年 十 一 月 十 八 日

     

気の重さ歌に詠まんと努めてもその気の重さが足を引っ張る                                                   

ことごとに反発覚えるものいいに勤め甲斐なく上司を見つむ                                                   

上司とのいわば不毛の葛藤に身を切り刻み疲労困憊                                                       

思い遣りなき叱責に我も人頭を下げて従い難し                                                         

振り切らんこの意味のない葛藤を思えど消えぬ上司の姿                                           

歩いても五分とかからぬ地点から車で行けば二分遅刻す                                                      

歩いても五分とかからぬ地点まで着いていながら二分遅刻す                                                   

止まらない鼻血にてこずり次々とテッシュー代えてさらに悪化す                                         

物持ちの良すぎて部屋の片づかず捨てようとしてしばしためらう                                                 

物のない戦後育ちの習癖でいらない書類もメモにと捨てれず         

      昭 和 六 十 二 年 十 一 月 十 九 日 

   

水槽に魚泳げる料理店ホテル内とはとても思えず                                                        

水槽の魚をすくってあつらえた活魚料理に舌鼓み打つ                                                      

碁のビデオばかり見ないでカラオケを覚えなさいよと先輩のいう                                                 

碁のビデオ見るのもいいがカラオケも覚えなさいよと先輩のいう                                          

カラオケの装置を買った先輩はレパートリー広くマイク離さず                                                  

新聞のわずか二行の広告で救われましたとホステスのいう                                                    

複雑な家庭に嫁いで耐えられず飛び出してきたとホステスはいう                                                 

バーのママ絵を書くのが趣味にして心象画をば書きたいという                                         

いまいちの絵もあるけれど深みある色のよく出た花の絵もある                                                  

画廊並み絵の掛けられたカラオケバー玄人はだしのママの力作                                                     

写生にはいささか飽きた心象を描きたいのとママ目を輝かす                                          

カラオケの接待終われば午前二時帰りの車中で歌口ずさむ                                                    

レパートリー少なきわれはただ二曲歌えど曲にうまく乗れない                                                  

気付いたらこれで五百首一月で丁度達成量産ではある                                                      

五百首も詠めどもなかなか気に入った歌は少なく飛躍が必要                                                   

五百首も詠めども未熟の歌ばかり経験不足に発想貧困                                                      

歌日記付ける習慣一月で付いたと言えぬがとにかく五百首          

       昭 和 六 十 二 年 十 一 月 二 十 日

     

連休の二日前から早々と首都高速は異常渋滞                                                          

ネズミ取り掛かった人はオートバイ白けた顔してしぶしぶ降りる                                                 

違反車に「とまれ」の旗をふりかざす十人ほども警官のいて                                                   

市ヶ谷の自衛隊前でネズミ取り「止まれ」の旗で違反車包む                                                   

何者でもない恐怖心にかられつつ東京歩いた浪人時代                                              

街路樹の銀杏のライトに照らされて黄色き葉っぱは風に舞い立つ       

    昭 和 六 十 二 年 十 一 月 二 十 四 日

     

夢の中ズキズキするほど蠱惑的若い娘と戯れており                                                       

時折は砂舞い上がるコートにて終日テニスのボールを追いつ                                                   

夕暮れて宵の明星輝けば明日も晴れねと妻は言うなり                                                      

久し振り妻と買い物新宿は人溢れおりはぐれぬ心配                                                       

安売りの店立ち並ぶ大通り若い売り子も声を張り上ぐ                                          

セーターとスカーフの色いまひとつしっくりしない妻のいでたち                                                 

いまひとつ色彩感覚乏しくてシャキっとしない妻の服装                                                     

広い庭つぶしてマンション建てし翁いじる庭なく惚けてみまかる                                                 

つい昨夜噂をしてた大地主の今朝みまかると聞いて驚く                                                     

幸せはお金じゃないねと妻のいう大地主惚けてみまかり                                             

三連休終わってみれば腕時計八分遅れおりオフィスで直す                                                    

サケ茶漬イクラ塩辛メンタイコ勤労感謝の夜はお茶漬                                                      

原稿の督促を受くうかうかと半年近くも無駄に過ごして           

       昭 和 六 十 二 年 十 一 月 二 十 五 日

     

才能がないわきゃないさ努力すりゃもちっとましな歌も詠めるさ                                                 

もうすこし自信を持てよ何事も遠慮ばかりが能ではないさ                                                    

肩書が何だ一人の人として勝負といこうぜ負けてたまるか                                                    

うじうじが嫌いさ俺も男なら馬鹿の上司のご機嫌とるな                                                     

おべっかは願い下げだよ男なら一匹狼どんといこうぜ                                                      

了見の狭い上司の一言にかりかりするな空は広いぜ                                         

これからは自分一人で生きるため鍛え直そう脳と足腰                                                      

男には男の歌が必要さこの歌い振り胸が晴れるぜ                                                        

万智ちゃんを越える目安が何となくついてきたような気持ちがするぜ                                               

新しい歌を詠むのさこれからは歌に心を歌に力を                                                        

今日こそは新しい歌詠む人の道を拓いた歌の記念日                                            

やったるぜこれから五百首この調子きっと見えるさ別の世界が                                                  

励ましになる歌作りこの俺が悩めるときの頼りとしよう                                                     

少々の軋轢あるは当然さもの見る角度がめいめい違う                                                      

挫けない精神力ならまかしとき死ぬ目にいくど合ったことやら                                                  

大過なく生きる生き方ごめんだねやりたいことを俺はやるのさ                                                  

精神が自由になった気にさせるそんな歌だよ詠みたい歌は                                           

精神が自由になった気になれるそんな歌だよ詠みたい歌は                                                    

ろうたけたうまい歌など目指すなよ心の思い素直に歌え                                                     

ありふれた言葉の中に真実のきらりと光る歌こそ詠まん                                                     

常日頃使う言葉に真実の息吹伝える暖かみあり                                                         

常日頃使う言葉に偽らぬ思い伝える逞しさあり                                                         

常日頃使う言葉で歌詠めば古着のように肌になじまん                                        

とらわれぬ心で見れば新しい世界が俺を待ちうけている                                                     

五七五七七のリズム日本語の基本か肌になずむ気がする                                                     

商魂の逞しさだけ突出す国も企業も個人も店も                                                         

地価高騰政府率先国有地高値売買利益独占                                                           

NTT株の利益で財政難免れんとて高値誘導                                                          

INF全廃合意成立し軍縮交渉大幅前進                                                   

レーガンはINFの全廃でSDIまで捨てる気ないと                                                       

生きるため必死になった終戦後その勢いで今も働く                                                       

平等の社会であれば自己放棄出来る人ほど出世が出来る                                                     

自己放棄出来ない男は悠然と世のいくすえを思いめぐらす                                          

午前四時ボスの家でのマージャン後海外出張する局長もいる                                                   

付き合えと言われりゃとことんボスのいうままに徹マン辞さぬ気構え                                               

どこまでも自分をむなしく出来る人肩書だけはさすがに立派                                                   

漫画家の妻が語れる漫画家は苦労しながら漫画書く人                                              

苦労して書いた漫画は見ないと言う笑ってやらねば悪いでしょうと                                                

漫画家の妻は漫画は見ないという面白くないとは言えないからと                                                 

我もまた文章書いて妻に見せけなされたときの寂しさを知る                                                   

軋むほど心の奥で葛藤をしている風の妻の危うさ                                                        

「どうかなる」不安の叫び上げる妻どうしようもない無力の我は                                        

「どうかなる」不安の叫び上げる妻どうしようもなく顔を見つめる                                                

      昭 和 六 十 二 年 十 一 月 二 十 六 日

     

雲低く寒々として晩秋の朝背を丸めオフィスへ急ぐ                                                       

体裁を繕うことば続ければ体裁だけしか言えなくなるよ                                           

なんだかだ上司の言うも存在の価値の欲しささ許してやるか                                                   

この俺もショスタコービッチ同様に押し倒されればまた起き上がる                                                

容れられぬことを恨むな同質でない才能を秘めたる証拠                                                     

一本のスプーンですくう土くれに五十億越す微生物すむ                                                     

人間の知ってることはごく僅かその僅かさのごく僅か知る                                                    

つん読の本のみ増えたわが書棚見るたび読もうと誓えどまた増ゆ                                                 

つん読の本の多きにこの頃は古本屋さえ足繁く通う                                             

粘りさえあれば負けとはならぬもの粘っていこうまだ五十前                                                   

やったるぜこれから五百首この調子きっと拓かん新たな世界                                                   

新宿で四割引きのラジカセを見つけて小踊り狙いの商品                                                     

ながら族四割引きのラジカセを息子は鳴らして試験勉強                                                     

ラジカセは重装備にてVHF UHFにオートリバース                                                  

マニュアルを覚えるだけでも大変と妻はラジカセつくづくながむ        

       昭 和 六 十 二 年 十 一 月 二 十 七 日

     

小説についひきこまれ午前二時寝つけば今朝のまぶたは重く                                                   

雨降ると予想の続けど当たらずに週末になり当たる雲行き                                                    

美術品あさりを続ける日本人偏執狂と仏紙の批判す                                                  

仕事場の付き合いだけじゃ淋しいと言いつつわれは一歩も動かず                                                 

肩書のある人々の付き合いの広きを羨む手をこまねいていて                                          

地価高騰政府競売国有地高値落札利益莫大                                                           

俺の見る世界の狭さつくづくとオフィスの窓から空を見上げて                                                  

高速道入口近く警察は装甲車止め交通妨害                                                           

赤軍の丸岡逮捕顔つきのすっかり変わり別人の風                                                        

警官は肌寒き中直立の姿勢で立てり前向いたまま



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