
目次
1.ポーランドへ=1 2 3 4
2.アンナ=5 6
キジ猫(工事中)
アンナ
6
翌朝、目を醒ますと周りはしんと静まりかえっています。アンナはぼくに体をぴったりと押し付けて眠っています。スヤスヤいい寝息です。柔らかいい い匂いがします。ぼくは幸せな気持ちで、アンナの寝顔を見つめていました。
ガレージのドアには、アンナが外へ出れるように、小さな出入り口がついています。そこから、外を見ると、どこもかしこも真っ白です。きっ と夜中じゅう雪が降ったに違いありません。こんなにたくさん積もった雪を見るのは初めてです。すっかり嬉しくなって、ぼくはガレージの外へ出、真っ白い雪 の上でピョンピョン跳びはねて遊びました。雪はサラサラしていて、少しも体にはくっつきません。
しばらくすると、アンナも起き出して来て、ぼくと一緒に飛んだり跳ねたり、ころげまわったりし始めました。鎖につながれているアンナは、 ガレージからあまり遠くには来られませんが、後ろ足で立ち上がり、ポンポンとじょうずに飛び跳ねます。ぼくもアンナに合わせて後ろ足で立ち上がり、前足を 合わせてポンポンと飛び跳ねました。ぼくたちの周りに白い雪が舞い上がります。とても素敵です。
その時でした。
「コラーッ」
いきなり大きな音が頭の上から落ちて来ました。いえ、本当にコラーッと言われたのかどうかはっきりしません。なにしろ聞き取れないポーラ ンド語で言われたのですから。でも、どなられたことははっきりわかりました。思わず、首をすくめ、ぼくは、とっさに走り出しました。後ろから、怒鳴り声が 追いかけて来ます。
アンナが、あわててガレージの中へ走り込むのが眼の端に写りました。
三十メートルも走ったところで後ろを振り返って見ると、石造りの家の窓から、顔中ひげだらけのおじさんが、上半身を乗り出すようにして、 ぼくに向かって右腕を高く振り上げ、大声でなにやらわめきちらしているのです。
ぼくは、安全のために、それからさらに二十メートルぐらい離れたところにあった、大きな木の後ろに隠れて、アンナの家をうかがいました。
しばらくすると、さきほどのひげのおじさんが庭に現われ、嫌がるアンナをガレージから引きずり出して家の中に連れ込むのが見えました。 アンナのかぼそげな悲鳴が聞こえて来ます。アンナはきっとおきゅうをすえられているのでしょう。ぼくのうかつさのために、なんの罪もないアンナに迷惑をか けてしまい、申し訳なさで、胸がはちきれそうになりました。
これでは、アンナのところへ戻っていくわけにもいかなくなりました。せっかく、頼りになる友達ができ、安心して泊まれる場所が見つかった
と思えたのも束の間、ぼくは、真っ白く雪の振り積もった、右も左もわからないポーランドの町に、またしても一匹だけポツンと放り出されてしまったのです。