◆6日以来日記には2週間の空白がある。その空白を埋めるのは、どうして2週間も日記が書かれなかったかの理由を述べれば大方片が付く。まず日を追って簡潔にその間に起こったことを記せば、
7月10日 盲腸のために虎ノ門病院に入院
7月18日 同病院を退院
ということになる。あまり簡潔すぎるであろうか。とにかくもこれだけ書けば日記をお留守にしなければならなかった訳が分かって貰えることだろう。とは言いながら僕は日記を完全にお留守にしたとは思わない。病院でノートを一冊買っていろんなことを記してきた。暇があればこの日記帳に転記しておきたいが、なにせ転記する作業ぐらいつまらない仕事はない。僕はすぐ飽いてしまいかねぬ。できるだけの努力はやってみるつもりだけれど。その方の日記によれば毎日見舞いにやって来てくれた人の名簿ができる。手始めにそれを以下に記しておこう。
7月10日 小島
11日 小島、叔父、秋山、庄野、西川、川口、高島、岡部、横堀、長田、佐伯、N.S嬢
12日 小島、阿久津、後藤、吉沢、横堀、庄野
Yokobori brings me some books(Butsutri no Sanpomichi,etc.)
Shono brings me Pajama,Yutaka and etc.
13日(土)小野、岡部、高島、伊沢、山下、藤本、牧野、高沢、関野、西川、長田、麻生、佐伯、秋山、庄野、川嶋、横堀、小島
tel to Izawa
38年入省者一同 :果物籠
37年入省者一同 :カルピス詰め合わせ
伊沢 :バナナ
14日(日)なし tel to KH,MW
15日 清水、小島、叔父、叔母、麻紀ちゃん、N.S嬢
叔父:カステラ、リーフパイ、
N.S嬢:香港フラワー
16日(火)池松、吉沢、庄野、小島、横堀
17日(水) 小島、横堀
tel to Tomita,K.S and Adekawa
18日(木)退院
小島
伊藤さん:500円
◆入院中に戸崎君に一通、父宛に2通、母へ一通手紙を書いた。
パルムの僧院も庄野君に本を持ってきて貰って読み上げた。17日の日記を見ればその感想が記されている。同じ日にこんな詩が記録されている。
秘密の花園
あなたの秘密の花園に
こっそり一人忍び込み
見つけて二つの大きなぼたん
かわたれどきの夕闇に
豊かに白く輝いて
さやかにそよぐ夕風に
静かにゆるく揺れていた
あなたの秘密の花園に
こっそり一人忍び入り
茂みの陰に密やかに
香りも彩に咲きにおう
恥じらい深き紅バラの
血に染む赤きくちびるを
闇にまぎれて盗まなん
同じく14日にはこんな詩が
白いバラ
青磁の花瓶に
白いバラの花
蛍光灯の光に映えて
慎み深い
その清純さ
ビロードの
やわらかいかげりの
ひとひら
こぼれ落ちて
便箋の上
Dear Noriko...(I l ve ou)
おお...
にじんだ
青いインク
花びらのかげに
隠れていた
ひとしずくの
涙に
◆入院中は実に多くの人のお世話になった。
見舞いに来てくれた人の中に小島さんの名が毎日見られるように小島さんにはなにかとお世話になった。本当に根から親切な真面目な人だ。心から感謝しなければならない。入院するときも一切の世話を焼いて下さったし、身の回りの細々した必需品を気を利かして持ってきて下さるし毎日忙しい中を見舞って下さるし至れり尽くせりの申し上げては失礼かもしれないが、そんな親切振りだった。「これで君ともうまくやっていけそうだ。お互いの人柄も良くわかって」と。これが今度の入院の持った一つの大きな意義であり、このことは他の同輩の友人たちについても言えることなのだ。
庄野君は鈴木さん宅(すなわち僕の下宿)に2度まで行って、パジャマとかゆかたとか書物とか色んなものの運搬係を喜んで引き受けてくれた。昨夜奥さんとお話ししたら、「私の好きなタイプの方です。なんだか繊細な感じのする東大法学部出の方ではないような...」と大変誉めていらっしゃった。第一印象がとっても良かったのだそうだ。さもありなん。彼は全くの好人物、人のためには何でもやるといった人間なのだ。彼にも本当にお世話になった。
横堀も良く訪ねてきてくれた。しかし、それがいかにも彼らしい。「いや、何でもないんだ。ちょっとブラっと立ち寄ってみただけなんだ」という言葉とともに現れるのである。本を3冊持ってきてくれたけれど、彼らしい選択で「物理の散歩道」」日本語の起源」「台湾の表情」。一番最初のだけは病院で読み終えた。
高島も話しにやってきてくれた。彼の人柄には人を引きつけるものがある。話もなかなか面白いし、なんだか独特の味のある人物である。昨夜もバナナを手みやげに僕の下宿まで来てくれた。良く気の利く男でもあるのだ。彼には京都大学の大学院で学びつつある許嫁がある。彼より年上だという。我らが同輩のうちで最も早く結婚し、最も幸福な家庭を築くことだろう。
清水が持ってきてくれた写真の中に旅行中旅館で酒を飲んで踊っている彼の大写しの一枚がある。いかにも彼らしい感じの溢れたいい写真だ。その話を昨夜したら、また彼らしく「イヤー」と頭をかいて大きく笑った。イイ奴ダナ、と思った。
伊沢も土曜日にバナナをもってやってきてくれた。彼とは駒場寮時代のつき合いでもう何も言うこともないが。少々まだ子供っぽいところが残っている。酒の味がまだわからないという。勝負事は一切だめ。もう少しズブトクなってもらいたいものだと僕の方では思っている。昨夜も来たが人前では少々大人しくなってしまう。高島とは昨夜で3度会っていることになるが、何となく照れているようなところがある。少々この僕が指導してやらねばと思う。
高島も伊沢も碁を習いたいと言っている。日曜日ごとに碁会でも開くことにしようかと思っている。
秋山も好きな奴の一人だ。彼には育ちの良さがある。彼の親父さんは羽田空港ビルのPresidentだ。昨夜電話したとき、The
Japan TimesのJuly 15 の6、7pageには、Tokyo Int'l Airport Building Reported,
Expandedという記事があって君のお父さんの写真が出ていると話したら、そうか今度見せてくれと言っていた。子供っぽいようなところがあって、反面酒は無類に強く、いろんな話をよく知っている。他人のために労を惜しまない。体格が良くて豪快に笑う。独特の風格がある。
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